阻止するため奔走した親たち「話題にして止めないと…」 ヤバかった状況から1週間で署名10万人【埼玉県の虐待条例を止めた裏側・前編】

谷町 邦子 谷町 邦子

市民団体がたった1週間で10万票もの反対署名を集めたことも大きな話題となった、「児童虐待禁止条例の改正案」の取り下げ。もしかしたら市民が知らぬまま「可決成立」するかもしれなかったこの条例……短期間でどんな動きがあったのか取材しました。

埼玉県議会自民党議員団(以下、県議団)が10月4日に提出した同改正案は、小学校3年生以下の子どもだけで過ごすことを禁止するもの。9歳以下の子どもだけでの留守番、公園で遊ぶ、集団下校を発見した際、虐待とみなし通告・通報を義務付けたものでした。改正案は自民・公明の賛成多数で6日の福祉保健委員会を通過しており、13日の本会議で可決される見込みとなっていました。

しかし、反対署名が知れ渡り、この条例の問題点がSNSで拡散することで、「負担が増え、子育て世代が追い詰められる」「理念はわかるがスクールバスやベビーシッターなどの支援やセーフティネットがない」「埼玉県で子育てをしたくない」という声がジワジワとあがってきたのです。

その背景には、2017年から待機児童問題などに取り組み、今回の反対の署名の発起人である野澤ココさんが参加する「みらい子育て全国ネットワーク miraco」(以下、miraco)の存在がありました。代表・天野妙さんに、署名発足から撤回に至るまでの思いを伺いました。

成立までの時間は1週間、話題にして止めないと

県議団の改正案に「NO」を突きつけた署名。始まりは「miraco」のメンバーの1人で、埼玉県に住む野沢ココさんからのメッセージでした。

「全国にいるメンバーが議論するためのチャットに、ココちゃん(野澤ココさん)が『妙さん大変なことが!』と、東京新聞のWEB記事をシェアしてくれて知りました。それが木曜(10月5日)の朝で、埼玉在住の他のメンバーも東京のメンバーも『これは、阻止しないとヤバい奴だよねって』という話になりました」

問題が共有され、天野さんたちメンバーは解決方法を探ります。

「全国に拡散する条例となってしまったら困る! と、埼玉県在住のココちゃんに『署名やった方がいい!』と、提案しました。彼女もワーキングマザーなので、子どもが寝静まったその日の夜、署名の文章を考えてもらい、私は次の日の埼玉県議会の福祉保健委員会へ傍聴に行きました。新聞の記事よりハードな内容でしたが、署名の内容に齟齬がないようチェックしました」と天野さん。その後、委員会の日の金曜の18時にネット署名が公開されました。

天野さんは、「条例成立まで1週間しかない。署名が話題になるかも、止められるかもわからない。でも、そのまま成立してしまうと、埼玉県民の子育て世帯が子育てできなくなる!!」と強い危機感を覚え、迅速に行動をしたとのこと。

しかし、委員会にはテレビ局のカメラが入り、記者も多くいたはずなのに、新聞やテレビも大きく取り上げてはおらず。テレビは2番組、新聞は埼玉版のみと、ほとんど話題になっていませんでした。

「土曜日の午前中の段階で署名は2000筆くらい。この条例案を知ってもらえれば”これはマズいよね”ってみんなが気づいてくれると思っていたのですが、知る術がなかったのです。みんなが知らない所ですぅーっと決まってしまう……本当に政治とは怖いなと思いました」

その後、日曜日になって新聞各社が報道、社説も加わり、SNSで著名人や芸能人が署名について拡散し、テレビ各社が取り上げ、急激に賛同者が増加。10日火曜日の時点で約8万筆となりました。

さらに、、田村団長が取り下げを発表しても増え続け、最終的には10万4114人もの人々が署名し(10月13日時点)、13日に開かれた本会議で本条例案が撤回されたのです。

改正案が撤回されて思うことは……

今回、県議団による条例案が撤回されたことを振り返り、天野さんはこう語ります。

「今回の教訓は『政治は無関心ではいられるけれど、無関係ではいられない』ということ。『政治を放置してはいけない』と、目覚めた人も多かったのではないでしょうか」

また、実態に合わない条例やルールができないためには市民も議員も「小さな違和感をきちんと見つけて発信することが大切」だと言います。

子どもが自宅や車内に放置され、死亡するなどの事件が問題視されるなかで、「自民党の方々も、スタート地点は間違っていないと思うんです。『子どもを虐待で死なせたくない』という思いは私達と一緒。けれど子育ての生活実態を知らないから手段がズレて行った。手段がズレちゃうってことに、もっとセンシティブになる必要があります。恐らく、自分の心がザラッとするような違和感を持った議員さんもいたのだと思います。が、言えなかった。市民もそう。言葉にして伝え、発信していくことが大切なのです」

県議団の改正案は民意とどうズレているのか、そして、なぜズレたのか。「世間からズレた埼玉の虐待条例…問題はそれだけじゃない 指摘された「待機児童の解消がまだ」「民意を聞いたフリ」【埼玉県の条例を阻止した裏側・後編】」では内容と、過程での問題点について取材しています。

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■「みらい子育て全国ネットワーク miraco」公式ホームページ https://miraco-net.com/
■みらい子育て全国ネットワーク(miraco | ミラコ | みらこ・@hoikuenhairitai) Xアカウント https://twitter.com/hoikuenhairitai

■天野妙(@Tae_Amano)さんXアカウント https://twitter.com/Tae_Amano
■「10月13日可決予定!STOP! 埼玉県 子どもだけの登下校禁止条例!! #虐待禁止条例 #改正案に反対します」署名ページ https://chng.it/6mjgSyLzQH
■【NWECフォーラム2023】[#35]日本人って休み下手!?~フランスから学ぶ休み方改革~ https://miraco-vacation.peatix.com/

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