電車で半日往復し続けた男性「えっ運賃いるの?」と逆ギレ なぜ「万引きと同じなのか」、駅員の理由とは

門倉 早希 門倉 早希

ある現役鉄道駅員のつぶやきが、X(旧Twitter)で大きな注目を集めています。

「電車は図書館ではない」と切り出されたその投稿。「現役駅員の本当の話」さん(以下、現役駅員さん)によると、ある若い男性乗客が読書をするために半日近く電車に乗り続け、何度も往復していたそう。それが発覚し、乗客に「乗車した分の運賃をいただきます」と伝えたところ、乗客は「お金がかかるなんて知らなかった。せめて入場券だけに。終点まではひどい」と運賃の支払いを拒否。

現役駅員さんが「確実に判明している終点までの一往復分は頂きます」と返すと、乗客は「給料が直接減るわけじゃないでしょ?途中駅まで(の運賃を支払う)で良くない?」と依然食い下がってきたといいます。投稿について、現役駅員さんにお話を聞きました。

鉄道会社が扱うのは「目に見えない財産」

現役駅員さんは、「現役駅員の置かれている苦しい現状を、世の中の人達に少しでも知って欲しい」という目的で駅員の現状について投稿。あくまで「一駅員としての個人的な意見」として日々発信をおこなっています。

ーー実際にあったエピソードですか。

「その通りです。改札業務中に、ICカードで自動改札を出ることが出来ないお客様がおり、事情を伺ったところ、読書をするために電車に乗って、路線の端から端まで5時間に渡り往復したとの申告を頂きました」

ーー駅員さんが勤める企業では、このようなケースは往復分の運賃をもらうという決まり?

「途中で改札を出ていなくても、ご乗車頂いたルートに基づいて運賃を頂戴することが基本です。例外的に、一筆書き大回り乗車などを認めている鉄道会社のユーザー様から多くのコメントを頂きますが、全ての鉄道会社に共通している大原則は『ご乗車頂いたルートに基づき運賃を算出する』ことは、ご理解頂きたいです。

ーー今回のケースは最終的にどう落ち着いたのでしょうか。

「本来であれば、往復した回数分の運賃を精算するのですが、何回往復したか覚えていないとの申告でした。お客様もルールをご存じなく、手元に分厚い本をお持ちで、申告に信憑性はあり、悪質性は無いと私は判断しました。

そこで、お客様へ『改札を出なくても、往復した回数の運賃がかかるルールをご説明した上で』、最低でも発覚している始発駅までの一往復分を頂戴して、対応を終了しています。

今回の私の『温情対応』に関して、賛否両論あるのは理解していますが、現場ではケースバイケースで対象せざるを得ない場面も多々ありますので、『全てのケースで温情対応しているわけではない』ことをご理解願えればと思います」

なお、現役駅員さんは「一筆書き大回り乗車などを認めている鉄道会社のユーザー様から多くのコメントを頂きますが」と追記しており、地域や鉄道会社によって設けられている「選択乗車」という特例ルールについても言及。「大回り乗車」とも呼ばれ、鉄道会社によっては路線網が複雑な一部地域でこの運賃制度を採用しており、同じ場所(駅)を通らず、途中下車をしないことなどがルールとして定められています。

現役駅員さんは自身の勤める企業とは関係性はないものの、一般的に広く知られるJRのルールを用いて、「まずは『全ての鉄道会社において、乗車したルートに基づいて運賃を計算することが大原則』です。鉄道会社と利用客の双方にメリットを得られるよう、複雑なJR路線を抱える都市部において、一定の定められたエリア内において、運賃は最短経路で算出して、他のルートも乗車できる簡便化した『例外ルール』を設けているとお考えください」と説明。

そのうえで、今回発生した読書をするために同一路線を往復する行為は、「同じ場所を通っているので、例外ルールは適用されず、『乗車したルートに基づいて運賃算出を行う』大原則のルールを適用するので、往復の運賃を頂戴することになります」としました。

実際、今回のようなケースはどうなるのか、参考としてJR西日本(本社:大阪府大阪市)に問い合わせてみたところ、「当社の規則では、列車をご利用の場合、ご乗車区間に対して必要な運賃をお支払いいただく必要があります。改札を通るか通らないかにかかわらず、ご乗車区間に対してお支払いいただくものでございますので、改札を出ないで折り返し利用された場合でも、重複した区間に対する運賃が必要になります。きっぷは正しく目的地までお買い求めください」と回答がありました。

最後に、投稿者である駅員さんに、このような不正乗車についての思いを聞きました。

「ICカードの普及に伴い『改札を出るときにチャージから運賃を引かれる』体験に慣れてしまい、改札さえ出なければ無料と錯覚してしまう気持ちも分かります。しかし、鉄道は多くの職人が携わっている『目に見えない財産』であることを、多くの方に知っていただきたいと思います。

約1年間かけて国家資格と訓練を積んだ運転士。終電から始発までの限られた時間で、線路や架線等を設備をメンテナンスする人。車庫に入った電車をメンテナンスする人。常に運行状況を把握し、トラブルでの遅れを定刻に戻す手配をする指令員。快適な車内や駅を保つために掃除する清掃員。そして、駅や車内でのトラブル対応等、お客様に直接関わる駅員。みんなが『目に見えない財産』を作り上げる為に、各々に課せられた使命を全力で全うしています。

それを『改札を出なければタダにしろ』『往復払うのは納得いかない』等と言うのは、『目に見えない財産』を売っている我々からすれば、罪の意識が無いのは分かりますが『万引きして何が悪い』と言ってるのと同じ意味です。

お客様は目の前にいる駅員を恨んで支払っていかれますが、駅員の裏には多くの職人がいて、日中夜問わず汗水垂らして働いています。それを思い浮かべれば、自ずと『乗った分の運賃を正しく払う』気持ちになると私は信じています」

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