「もう島根では二度とないのですか?」百貨店閉店で、どうなる人気の物産展 最後は10月…関係各所に「存続可能か」聞いた

山陰中央新報社 山陰中央新報社

 島根県唯一の百貨店で、市民に長年親しまれてきた一畑百貨店(松江市朝日町)が来年1月24日に閉店すると発表した。百貨店の魅力の一つが「全国うまいもの博」や「北海道物産展」など、全国のご当地グルメや名物を集めた物産展だ。百貨店が閉店することが決まり、今後の物産展がどうなるか気になる人も多いのではないか。うまいものに目がない記者もその1人だ。早速、調べてみた。

 一畑百貨店では毎年、大型連休や秋などに、各地方の物産展を10回前後開催している。中には、1959年に開催された「出雲うまいもの大会」を皮切りに、島根と鳥取両県の物産協会が共同で主催する「島根・鳥取ふるさと特産まつり」など歴史あるものをはじめ、函館物産協会が主催し、北海道の食を集めた「北海道物産展」、全国のグルメが味わえる「全国うまいもの博」などがあり、毎回30~40社が出展し、にぎわいをみせてきた。

 一畑百貨店の販売促進部前田聡部長(52)は、今後の物産展について「10月に計画をしている物産展が最後になる。(物産展を開催する)催事コーナーはお歳暮コーナーに切り替わるため、それ以降は物産展を行う予定はない」と説明した。

 物産展の中でも最も売り上げが大きいのが、大型連休に合わせて開かれる「全国うまいもの博」だ。日本テレビ系列の地元テレビ局が全国各地で開く人気企画で、一畑百貨店では日本海テレビ(鳥取市園町4丁目)が主催する。2010年から毎年、これまでに12回(22年は新型コロナウイルス禍で中止)開かれ、毎回約40社が出店した。今後の実施はどうなるのか、主催者の日本海テレビに聞いた。

 日本海テレビの山下修司事業部長は「全国うまいもの博は百貨店という括りでしか行わないため、今後、 島根県で行うことは難しい。値段の高い商品も扱っているためターゲット層は、百貨店を利用する層と考えられる」と話した。残念ながら島根で実施は難しいようだ。一方で「代わりに鳥取県にある百貨店で同規模のうまいもの博を行うことを現在検討している。早ければ、来年の大型連休に全国うまいもの博ができないかと計画を進めている段階だ」と続けた。山陰両県では、一畑百貨店以外に鳥取県に三つの百貨店がある。これまで「うまいもの博」の開催経験がないため、同じ規模で開催できるのか、今後検討をするという。山陰での可能性は残っているようだ。

どうなる、北海道物産展

 記者のお気に入りは、毎年春と秋に開催される北海道物産展だ。北海道の海の幸やスイーツが味わえる大好きな企画だった。北海道物産展を主催する函館物産協会に電話で尋ねると、協会では一畑百貨店としか島根で取引がなく、今後の関わりは未定ということだった。一方、百貨店以外でも、道の駅などで物産展を実施した実績はあるという。現状では、今年の秋が最後になる見通しだが、同協会の山田義則事務局長は「声が掛かれば、百貨店以外でも島根で物産展を検討したい」と話した。

 一畑百貨店が閉店すると、島根県は現時点で百貨店のない三つめの県になる。他の百貨店がなくなった県では物産展はどのようになっているのだろうか。2020年に県内唯一の百貨店「大沼」が閉店した山形県では、物産展に出店していた業者が動いた。業者が、お土産ショップやレストランの入る物産館「ぐっと山形」を運営する株式会社山形県観光物産会館に打診すると、同社も受け入れ、北海道物産展を21年に開催することができた。以来、毎年続き今年で3回目になる。ただ、20店以上が百貨店時代と比べて、出店は7店と小規模になった。

島根物産観光館でできないか?

 島根県物産観光館(松江市殿町)では物産展を開催する気はあるのだろうか。管理する島根物産協会の企画開発課の戸谷秀基課長に聞くと「物産観光館が一畑百貨店の取引先の受け皿となれるよう努力していく」と前向きな返答があった。

 さらに「毎年2月に、鳥取県の物産協会と一緒に物産展(島根・鳥取ふるさと特産まつり)を一畑百貨店で開催しているが、(閉店で)次の実施は不透明なのが実情。県や鳥取の物産協会とも連携して今後も続けていきたい」と話した。現状では館内のスペースに限りがあり、物産展開催の前例がない。課題は少なくないが、島根県内の物産展の灯はつながれていくのかもしれない。

 ただ、そもそもなぜ「物産展=百貨店」なのか。物産展出店の仲介事業を行っている有限会社DYC(群馬県桐生市)に聞いた。山崎和久社長は「百貨店は催事用のスペースの確保や今までのノウハウがあるため、大規模な物産展を行うことができた。現在は道の駅やショッピングセンターで物産展を開いている場合もあるが、大規模な物産展を行うまでには至っていない」と話した。

 百貨店の催事場は一畑百貨店のように最上階にある場合が多く、集客力ある催事で、下の階の売り場にも客を流し、店舗全体の売り上げを伸ばす「シャワー効果」を発揮できていた。物産展の売りは実演販売だが、百貨店の催事場は水回りの設備がしっかりしている。こうした物産展を前提にした仕掛けや設備が百貨店に備わっており、道の駅やショッピングセンターが同規模で実施することは難しいようだ。また一般的に、百貨店での物産展では出展企業の宿泊費の一部を百貨店側が負担するケースもあり、広い場所を貸すだけではなく、出費も伴い、施設側の覚悟も必要だ。

 多くの人でにぎわう物産展には記者も通い、一畑百貨店でぎゅうぎゅう詰めになりながらお目当ての商品を手に入れた思い出がある。一畑百貨店の前田部長は「最後になる一畑の物産展を多くの人に楽しんでほしい。催事のイートインスペースを完全解放するまでとはならないが、安全においしいものを市民に届けたい」と意気込んでいる。取材を通じ、買い物だけじゃない、百貨店の存在の大きさや地域にあるメリットを強く感じた。これまで担ってきてくれた役割にあらためて感謝し、最後の物産展を記者も満喫したい。

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