ジオラマ作家の情景師アラーキーさんがアカウント(@arakichi1969)で公開した「梅本建材店」と「峰来軒」を見てください。商売を畳んだ会社やラーメン店ですが、経営者や店主をサプライズで喜ばせようと、家族が内緒で情景師アラーキーさんにジオラマの制作を依頼したそうです。喜びも苦労もひっくるめて思い出が凝縮されたそれぞれの“城”。こんな素敵な贈り物をプレゼントされたら…。
「かつて実在した建材店のジオラマ。ご依頼主のご家族の会社が店じまい、土地も売ってしまうのでせめて記録としてジオラマ化して残したいという家族からの相談を受け制作。どこにでもありそうなプレハブ社屋だが社員や家族にとっては大切な場所。大切な思いを形にする仕事」と公開した画像に2万以上のいいねが付きました。
本物のような精巧な作り
商品のコンクリートブロック、プレハブ社屋のアルミサッシの引き戸、入り口横に置かれた鉢植え。建物屋根に触れた指先がなければ、本物と間違えそうな精巧な作りです。社名入りのトラックやブルドーザーも現場のにぎわいをひきたてています。鉢植えは社長さんが趣味で育てたものだそう。家族は社長さんの誕生日に合わせて、この粋な贈り物を密かに準備。「お礼のメールとその際の写真は私の宝物になりました」と情景師アラーキーさんは語ります。
黄色と赤を基調にした「らあめん」の大看板。東京都多摩市に店を構えた峰来軒は、2022年4月2日で暖簾を下ろしました。グルメサイトに残された口コミでは「父と母が大好きだったこちら『峰来軒』さん。閉店といっても悲しいモノではなく、ご夫婦揃って健康なまま、まだまだ長〜い人生をこの先のんびり楽しみたいという、余力を残しての幕引きなのだ♡42年もの長きに渡り愛され続けずっと頑張ってきたんだもの、そこはお疲れ様でしたと拍手を送りたい」「食べ終わってお店を後にする人の幸せそうな笑顔を見ていると、唐木田のソウルフードとして、ここ峰来軒がしっかりと根付いていたのだと感じた」などとあります。愛されたお店だったんですね。
情景師アラーキーさんによると、峰来軒は常に行列の人気店でしたが、店主が年齢を理由に店じまいを決めました。「ジオラマで残してプレゼントしたい」と家族からの相談があり制作したそうです。「家族の思い出、地元の思い出であるラーメン屋はジオラマになって今日も変わらず営業を続けています」のツイートに、「素敵なエピソードですね もちろん‼️作品も素敵です」とのコメントが寄せられました。情景師アラーキーさんに聞きました。
「記憶のスイッチからいろんな思い出がよみがえる」
ー梅本建材店さんと峰来軒さんも、現地に足を運んでさまざまなアングルから写真、映像を撮ることから制作が始まったのでしょうか
「現地にいけるならば行きますが、たいていのご依頼は遠方もしくはすでに現存しない建物が多く、依頼者に写真などを提供してもらうか、足りない場合はGoogle mapなどで推測して図面を書き上げます。過去には白黒写真が数枚しかない資料がない昭和30年代の風景、東日本大震災でなくなった駅など、資料集めが限定される仕事もこなしています」
ー社長やラーメン店主の方はジオラマをご覧になって
「ともにサプライズで渡したので、驚き、息をのみながら何時間も眺めて感動していたと聞いています。制作はかなりの高額です。依頼された家族に、何としてもジオラマを作って残したいという強いお気持ちと喜んでくれるという確信があって初めて制作が成立します。依頼者と私のタッグがあってジオラマで思い出の場所を残すことができるのだと思います」
ージオラマで記憶や思い出を残すことは、写真や映像とはどのような点が違うのでしょうか
「立体物なのでいろいろな角度からながめることができる、そしてそれぞれの見た位置からの記憶のスイッチが押されていろんな思い出がよみがえる点です。Twitterに投稿した写真のように外で撮影すると本物みたいに見えるのがジオラマの利点だと思います」
王子動物園のタンタン展示場のジオラマも
情景師アラーキーさんはパンダのタンタンが長年過ごしている王子動物園の屋外展示場のリアルなジオラマを制作。超リアルな1/35スケールのジオラマの制作記「情景師アラーキー ×TANTAN 27th anniversaryコラボ本「 パンダのタンタン おうちジオラマ」」を本にまとめました。ジオラマ制作の解説に加え、タンタンの展示場を数多くの写真で紹介した内容になっています。B5版(64ページ、全ページフルカラー)。詳しくはこちら
昭和ノスタルジーからアニメシーン再現まで制作範囲の守備範囲は無限という情景師アラーキーさんは、『駄菓子屋の[超リアル]ジオラマ』『作る!超リアルなジオラマ』『凄い!ジオラマ[改]』の著書もあります。サイトはこちら