冷戦終結から30年以上の歳月が流れる。共産陣営の親玉ソ連が崩壊し、多くの共産国家が民主主義体制へと移行した。それにより、世界では経済のグローバル化が瞬く間に広がり、市場経済や資本主義に基づくグローバル企業は国境の壁を超え、自由に経済活動できる環境を手にした。経済のグローバル化によって地域企業が悲鳴を上げ、一部の国々では保護主義的な動きもあったが、インターネットやSNSなどが世界的に普及し、現代人が大きな恩恵を受けたことは間違いない。
だが、経済のグローバル化とは言い換えれば、米国主導のルールや価値観が世界に普及したということであり、世界には多様な国々があることを認識すれば、それに異議を唱える国家が時間の経過とともに現れてくるのはごく自然なことだろう。
そして、それは既に周知のとおりだ。米中対立をはじめ、ロシアやイランなど米国主導の世界秩序への挑戦は顕著になり、グローバルサウスの中でも中国やロシアとの結束を強化する動きも広がっている。近年、アフリカのマリやブルキナファソ、ニジェール(これは最近)では軍事クーデターが相次ぎ、軍事政権がロシアと関係を強化しているのはその証だ。
このようななか出てきたのが、経済安全保障という概念である。経済安全保障は経済の安定を通して国家の安全保障を維持することだが、これは言い換えれば、「世界経済を牽引してきた米国自身が危機感を強め、自国経済の優位性を維持するために中国などに対抗する措置」である。昨年、バイデン政権が先端半導体分野で対中規制を敷き、日本やオランダの同盟国に同調を呼び掛けたケースは、米国が中国の経済力や軍事力の拡大を恐れ、それを防止するために行なったという意味でこれにあたる。
そして、米国はこの先端半導体分野で台湾や韓国、日本などの同盟国や友好国と結束を強化している。今日、この4カ国の間では脱中国依存という方針のもと、先端半導体分野で強靭なサプライチェーン構築が進められ、熊本や北海道では半導体製造工場が設置され、日本も自国産化を急ピッチで強化している。
だが、これは半導体分野に限った話ではない。最近、中国は日本産海産物の輸入規制を厳格化し、中国に海産物を輸出する日本企業の間では経済的な懸念が広がっている。また、中国は関係が悪化した台湾やオーストラリアに対して、それぞれの特産品の輸入を突然ストップするなど、経済的威嚇を展開している。中東では米国に代わって中国が影響力を強めており、中国主導の中東秩序で石油の安定供給は維持されるのかと心配の声も聞かれる。
世界が分断へと向かい、世界秩序を牽引してきた米国自身が保護主義的な動きを見せ、それによる経済的影響が懸念されるなか、日本はフレンドショアリング(ある国が同盟国や友好国など近い関係にある国々との間で限定したサプライチェーンを構築すること)を強化する必要がある。
日本は先端半導体など安全保障上のリスクになる分野、希少金属など経済的威圧を掛けられると損害が大きい分野において、積極的に脱中国を進めると同時に、米国や欧州、インドや韓国、台湾やオーストラリアなどの同盟国や友好国と貿易面での結び付きを強化し、「友好国が中国によって輸入をストップされれば、日本がその分を購入して補う」「日本の海産物・農産物を中国に輸出できなくなった際、友好国や第三国に事前に買ってもらうよう交渉しておく」ことなどを進めていく必要がある。