ウイグル、チベット、香港を超えて…「台湾は核心的利益の中の核心」 中国がけん制発言を強める理由

治安 太郎 治安 太郎

国際政治や安全保障に関わる人間にとって、大きなイベントが週末にシンガポールで開催された。英国国際戦略研究所(IISS)が毎年主催するアジア安全保障会議、通称シャングリラ・ダイアローグが先週金曜から3日間の日程で開催され、各国の国防関係トップらが一堂に会した。今年の会議の中で筆者が最も印象的だったのが、出席した中国軍幹部が台湾を“核心的利益の中の核心”と強調したことだ。中国は台湾をウイグルやチベット、香港と同じく核心的利益と呼んできたが、それら3つを超える重要な利益と位置づけたのである。

中国の李尚福国務委員兼国防相は4日、台湾問題について言及し、「台湾は中国にとって核心的利益中の核心であり、平和的統一に向けて最大限努力するが、中国から分裂させるような動きがあれば自らの主権と領土を守るため武力行使を排除しない」と米国や台湾を強くけん制した。近年のシャングリラ・ダイアローグでは米中が双方を強く非難する演説が続いているが、今年の会議では米国のオースティン国防長官が李国防相との直接会談を打診したが、中国はそれを拒絶するなど強気の姿勢を前面に出している印象を与えた。最近も台湾海峡や南シナ海上空では、中国軍が米軍に対して異常接近するなど挑発的な姿勢を示しているが、これらと直接会談拒否との連動性も気になるところだ。 

さて、ここで気になるのが、なぜ中国は最近になって核心的利益の中の核心という言葉を使うのかだ。今年4月、習近平国家主席は中国を訪問したEUのフォンデアライエン欧州委員長と会談した際、「誰かが1つの中国問題で不満を示せば、中国政府と中国人民は絶対に許さない、台湾問題は中国の核心的利益中の核心だ」と強くけん制した。また、日本の林外相が同月北京を訪問して秦剛国務委員兼外相と会談した際、秦氏は日中間で対話を継続する姿勢を示したものの、「台湾問題は中国の核心的利益の核心であり、日本は手を出してはいけない」とクギを刺した。

その背景は、大きく2つある。まず、米中対立の最前線としての台湾だ。日本国内でも台湾有事を巡って懸念が広がっているが、西太平洋への影響力拡大を目指す中国、それを抑えたい米国の双方にとって、今日台湾は軍事的最前線となっている。習政権の野望は台湾統一に終わらず、そこを軍事的最前線として西太平洋へ進出することにあり、米国としては何としても台湾を防波堤とする必要がある。台湾は自由主義と権威主義の戦いの最前線でもあり、中国としては何が何でも台湾を影響下に置く必要があり、それが台湾を「核心的利益の中の核心」に持ち上げているのだ。

また、台湾は、中国が掲げる核心的利益の中で唯一残された課題と言える。中国が位置づける核心的利益には、台湾の他に香港、新疆ウイグル、チベットなどがあるが、新疆ウイグル自治区では当局による人権侵害だけでなく、厳しい監視の目が行き届いており、チベットとともに習政権にとっては「平和で安定した秩序」がそこにある。国家安全維持法が施行された香港では、施行前には自由を求める人権活動家、民主派などによる抵抗が暴力という形で表面化したが、今日それは当局によって完全に封じ込められ、香港の中国化が進んでいる。習政権にとって香港も既に解決された問題となっており、今日、「ウイグル、チベット、香港が解決した。次は台湾だ」という形だ。唯一「解決していない」核心的利益を巡る問題、台湾を巡って、習政権のボルテージは上昇気流に乗っている。こういった事情により、台湾は核心的利益の中の核心になっているのだ。

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