「子猫を保護したので、在宅勤務させてください」と上司に申し出たら「いいよ」と快諾された。こんなに柔軟な対応ができる会社に感謝しながら、子猫の世話と在宅ワークに勤しんでいる齋藤さんに経緯を伺った。
いつも通る川べりで深夜の救助劇
クライアントの要望にこたえて、さまざまなコンテンツを制作する仕事をしている齋藤さんが子猫を見つけたのは、2022年6月の終わり頃。その日は応援しているサッカーチームの試合を観戦した帰りで、日付が変わろうとしている深夜だった。
「自宅近くを流れる川から猫の鳴き声らしきものが聞こえて、声のするほうにいってみると、川べりで鳴いている子猫を見つけました」
携帯電話のライトで照らしてみると、どうやら子猫らしいことが分かったという。
じつは、あとから分かったのだが、その子猫は川へ落ちる前に川のほとりに生えている木に登っていて、齋藤さんより先に別の女性が助けようとしていた。ところが救助に失敗して、川に落ちたのだという。そこへ齋藤さんが通りかかったため、協力して救助活動が再開されたのだった。
齋藤さんが知り合いの保護猫活動家に連絡すると、すぐに捕獲機を携えて駆けつけてくれた。
「前の年(2021年)に実家で保護猫を引き取っており、その縁を結んでくれた方です。深夜でしたが、ダメ元で電話したところ、すぐに来てくださいました」
さらに、近所に住む外国人の男性も加わって、無事に救助されたのは三毛の子猫だった。
「その外国人の方は、この救助劇の前日あたりから時々猫の鳴き声が聞こえて気になっており、その日は特に猫がずっと鳴いているので、様子を見に来たとのことでした」
子猫が救助されたとき、その外国人の男性はすでに立ち去っていたという。
「いいよ」と在宅勤務を快諾した会社の上司
救助した時間が深夜だったため、齋藤さんは子猫を自宅で1泊させたのち動物病院へ連れて行った。
「結構な高さを落ちたはずなのに、骨折や内臓損傷などはなく、比較的健康でした。でもけっこう痩せていて、肺炎にもなりかけている状態でした」
そのときはまだ、自分が引き取ることを決められなかったという齋藤さん。
「熟考する時間も含めて1週間入院させてもらいました」
齋藤さんは、実家では子供の頃から猫と一緒に暮らしていて、自立してからも、いつかは猫を迎えたかったという。
助けた子猫を家族に迎えようと決めた理由が3つあるそうだ。
「この前年に、奇しくもペット可のマンションに引っ越してきたこと。保護した年の2月から、在宅勤務が許される環境に異動していたこと。会社の上司に『子猫を保護したので、せめて大きくなるまでは在宅勤務にさせてほしい』と相談したら、『いいよ』と笑ってOKしてもらえたことです」
全てのタイミングが、あたかも子猫を迎えるために準備されていたかのようだ。しかも「子猫を保護したので在宅勤務に」と申し出たら「いいよ」と許した、会社の柔軟な対応も素晴らしい。
在宅勤務を許可した上司も保護猫を飼っているそうだが、社内でも「子猫を保護した」ことを理由に、完全在宅勤務に切り替えた例は聞いたことがないという齋藤さん。
「そもそも毎日の出社が必須ではなく、在宅勤務OKの会社です。雰囲気は、とてもいいと思います」
人見知りで甘えん坊
こうして「絹(きぬ)」と名付けられた子猫は、齋藤さんの家族になった。
動物病院に入院中は看護師さんに向かって「シャーッ」と威嚇することもあった絹ちゃんだが、齋藤さんには威嚇しなかったという。
「うちに迎えて3日目くらいにケージから出して自由にしましたが、すぐに膝に乗ったり私のお腹の上で寝たりしていました。大変な人見知りですが、私に対してはそうとうな甘えん坊です」
齋藤さんにずっとくっついていたいみたいで、齋藤さんが仕事を始めるとデスクの横に置いてあるケージの上で寝ていて、夕方になる頃には膝の上に移動してくるのだとか。
「出かけようとすると察して、腕や脚に抱き着いて噛みついて引き止めてきますが、いざ出かけてしまえば鳴くこともいたずらすることもありません。とてもいい子にお留守番してくれているのを、ペットカメラで確認しています」
1匹の保護猫が飼い主の働き方まで変えた事例で、齋藤さん自身も猫が1日中そばいる生活は大変幸せだという。それが生活の質や仕事のモチベーションを上げる結果になり、猫にも会社にも感謝しているそうだ。