多くの人でにぎわいを見せてい今年の桜のシーズン。京都府立植物園(京都市左京区)では近年、老齢化したり、災害で倒れたりしたソメイヨシノの再生に力を入れている。同園の専門家は「ソメイヨシノの寿命は短いと思われがちだが、それは誤解です」と強調する。
同園によると、ソメイヨシノは成長が早く、一斉に華やかに咲くことなどから、戦後、京都市を含め各地で広く植えられた。
一方で腐朽菌が入って腐りやすく、植栽から50~60年たつと古木化が進行。倒壊の危険性などもあり、伐採を余儀なくされる木は多い。
だが同園では、幹が朽ちてぼろぼろになったり、空洞になったりしても切らず、再生を試みている。樹木医の中井貞さん(52)は「芽をふいたり、根を伸ばしたりする生命力の強さもソメイヨシノの特徴。幹や枝を更新しながら、同じ個体として長く生き続けられる」と指摘する。
実際、どう再生させているのだろうか。例えば、冬場の施肥。そばに鴨川が流れる同園の土壌はもともと石が多く、水分や養分が抜けやすいという。その分、油かすや牛ふんをまぜた有機肥料をたっぷり与えている。
木々の周囲に大量の落ち葉を敷き詰めているのもそう。園内で出た落ち葉で、やがて分解されて土壌の栄養になる。アスファルト舗装された市街地では難しく、広い園ならではの方法だ。植物を堆肥化した土もふんだんに活用している。
さらに、根を傷めずに圧縮空気で土をほぐす「エアースコップ」による土壌改良を10年ほど前から定期的に続け、発根を促している。
ソメイヨシノの朽ちた幹をよく見ると、「不定根」と呼ばれる細かな根がたくさん出ているのが分かる。腐った幹を養分にして伸び、細い竹筒や塩ビ管を使って人為的に地面まで誘導することも。しっかりと根付き、数年かけて新たな幹に育った姿も確認できる。
こうして同園では、戦前からの古木を含めソメイヨシノ約20本が活力を取り戻している。2018年の台風21号で根元から倒れた木からも若々しい枝が伸び、今年も花を咲かせた。
中井さんは「きちんと手を加えてあげれば、その分応えてくれるのでやりがいがある。ソメイヨシノ本来の生命力を後押しし、来園者に見てもらうことが、広い土地や技術がある植物園の役割と考えている」と話す。
この春、桜の美しい花だけでなく、それを支える幹や根元にも注目してみてはどうだろう。