現在、日本には中国に次いで多い9頭のパンダがいますが、実はそのうちの4頭が和歌山「アドベンチャーワールド」(和歌山県西牟婁郡)で暮らしています。みんな同じに見えるかもしれませんが、実は個性豊か。身近でお世話をしているパンダチームのみなさんに、パンダライター・二木繁美がお話を聞きました。
第1回の末娘の楓浜(ふうひん)からはじまり、中国へと旅立った桜浜(おうひん)、桃浜(とうひん)と父親の永明(えいめい)。母の良浜(らうひん)、ファンから「社長」と呼ばれる彩浜(さいひん)に続き、最終回は、行動も頭のとんがりも個性的な結浜(ゆいひん)をご紹介します。
結浜ってどんなパンダ?
結浜は2016年9月18日生まれ。現在6歳のメスのジャイアントパンダです。体重197グラム、体長24センチと、パーク最大の大きさで生まれた結浜は存在感もビッグ。ダイナミックな動きで、いつもゲストを楽しませてくれます。「チャームポイントの頭のてっぺんのとんがりは、生後4か月くらいから目立ちはじめ、その長さは現在1センチ以上あります」と、飼育スタッフ。同じくとんがりがある妹の楓浜(ふうひん)とともに、ファンから「ピコン姉妹」と呼ばれています。
約半分の確率でふたごが生まれるパンダですが、1頭で生まれた結浜。健康チェックのためにスタッフが預かる時間以外は、母親の良浜が初めて24時間抱き続けて育てたこどもでもあります。良浜に似ておてんばな性格で、良浜と2頭で仲良く遊んだり、一緒に竹を食べたり、ひとり立ちするまでの親子の様子はゲストの心を和ませてくれました。
「じつは結浜、意外と声が低いんです」と、話す飼育スタッフ。子育て中は親子が鳴き声でコミュニケーションを取ることもあるのですが、おとなのパンダはあまり鳴きません。同パークではガラスなしでパンダに出会える施設もあるので、結浜の声が聞ける可能性もあります。
また寝相のクセが強いのも結浜の特徴。「すみっこが大好きなので、運動場の隅にぴったりフィットして寝て、壁にヨダレのあとが付いていることもありますね」とのことですので、パーク内で信じられないような格好で寝ているパンダがいたら、それは結浜かもしれません。
竹の好みは?
グルメなパンダに多いという右ききの結浜ですが、竹の好みはその時の気分次第。厳しく選んだり、選ばなかったりとムラがあります。「竹がおいしいときは、顔を斜め上に向けて幸せそうな顔で食べますよ」と、飼育スタッフ。小さい頃はニンジンがあまり得意でなかったようですが、いまは大好き。飼育スタッフによると、もしかしたら味や食感が苦手だったのかもしれないとのこと。いまでも産地や種類が違うと、食べてくれない事があるのだそうです。
「結浜のご機嫌が悪くなるのは、竹がおいしくなかったり、聞き慣れない音がしたときです」。おいしい竹がないときは、でんぐり返しをして抗議します。その姿は、お母さんの良浜が荒ぶっているときにそっくり。ちなみに結浜、遊ぶときにもでんぐり返しをします。コロコロと転がるかわいい姿に、思わず歓声が上がる人気者です。
ちなみに、食事の際に、後ろあしを前に投げ出して腰を落とす独特の座り方は「パンダ座り」と呼ばれるもの。こうして食事をするのは、パンダ独特の習性と言われています。パンダ座りをすると、両前あしを⾃由に使えて⽵が⾷べやすいのです。さらにお尻が上を向くため、座ったままうんちもでき、長時間おなじ体勢で竹を食べ続けることができるのです。なんとも効率的なこのポーズ、かわいいだけじゃなかったんですね。
結浜の日常
野生では、雪が積もるような寒い地域に住むパンダは暑さが苦手。気温の高い日は室内で過ごします。結浜も暑い日には遊具の上ですぐにぐでんと寝てしまう事もありました。その後は、バックヤードで竹をもらってご機嫌に。こうして毎日のんびりと過ごしています。
動物たちの健康管理のために⽋かせないハズバンダリートレーニング。ハズバンダリートレーニングとは受診動作訓練ともいい、受診に必要な動作を訓練し、動物に協⼒してもらいながら、健診や医療⾏為をおこなうものです。⿇酔を使わずに⾏えるため、動物側の負担が少ないのがメリット。飼育スタッフによると、結浜はごほうびに⽢いリンゴやハチミツがもらえるのを知っているため、やる気満々だそうです。
頭の上のとんがりヘアーがトレードマークの結浜に、飼育スタッフさんからメッセージをいただきました。「アドベンチャーワールドで生まれ育った子の中で最も大きな197gという体重で生まれ、これまで病気やけがもせず、立派なメスへと成長しました。小さな頃から好奇心旺盛でおちゃめな一面もあり、いつも私たちを笑顔にしてくれる存在です。これからもみなさまに愛されながらのびのびと過ごしてほしいと思います」。
表情が豊かで、いろいろな姿を見せてくれる結浜。行動が予測不能で不思議ちゃんの一面に、思わず「人間入ってんちゃうの?」と、背中のチャックを探したくなるようなポーズも。天真爛漫なその姿で、見る人を笑顔にしてくれる。そんな結浜の誕生日は「世界竹の日」でもあります。これからもおいしい竹をいっぱい食べて、健康に過ごして欲しいですね。
この連載を始めた当初はパークには7頭のパンダがいましたが、現在は3頭が中国へ旅立ち、4頭となりました。じっさいにお世話をされている飼育スタッフさんのお話は、それぞれに何かしらのエピソードがあり、筆者もとても興味深かったです。グレートファーザーである永明さんをはじめ、マイペースな桜浜、好奇心旺盛な桃浜と7頭すべての魅力をご紹介することができて、本当によかったと思います。中国へ旅立った3頭も検疫が終わり、成都ジャイアントパンダ繁育研究基地の非公開エリアで暮らし、徐々に環境にもなれてきているそうです。日本と中国、離れていてもまた元気な姿で再会したいですね。
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日本パンダ保護協会会員であり、明浜・優浜の名付け親でもある二木繁美による、桜浜を含む日本で暮らすパンダたち13頭を紹介する『このパンダ、だぁ~れだ?』(講談社/講談社ビーシー・1430円)が、2022年12月1日に発売されました。飼育員さんたちのインタビューなど、さまざまな角度からパンダたちの魅力を知ることができます。姿だけでなく、つむじやおしりなどからパンダをあてる、ややマニアックなクイズもお楽しみください。