2022年はジャイアントパンダ来日50周年の記念の年、「上野動物園」(東京都台東区)を中心に盛り上がりを見せました。現在、日本には中国に次いで多い13頭のパンダがいますが、実はそのうちの7頭が和歌山「アドベンチャーワールド」(和歌山県西牟婁郡)で暮らしています。日本一パンダの飼育頭数が多い施設なのですが、永明(えいめい)、桜浜(おうひん)、桃浜(とうひん)の3頭が、中国・四川省の成都にあるジャイアントパンダ繁育研究基地へと旅立つことが12月15日に発表されました。
第1回に楓浜(2022年11月29日公開)を紹介した、パンダライター・二木繁美によるパンダ連載の第2回は、お別れが決まった8歳のふたごのお姉さん・桜浜(おうひん)です。
一見、パンダはみんな同じように見えるかもしれませんが、実は個性豊か。パンダファンであれば、パンダみんなが好きなのはもちろん、推しパンダがいらっしゃる方も。身近でお世話をしているパンダチームのみなさんにお話を聞きました。
桜浜ってどんなパンダ?
大きめの耳と少しはねた目のまわりのアイパッチが特徴の桜浜は、2014年12月2日に桃浜(とうひん)と一緒に生まれたふたごのお姉さんパンダです。父が永明、母が良浜。永浜(兄)、海浜(兄)、梅浜(姉)、陽浜(姉)、優浜(姉)は中国に渡っており、同パークで暮らすきょうだいパンダのなかでは妹の桃浜とそろって最年長。妹たちは、結浜、彩浜、楓浜です。
性格はマイペースでおっとりしていて、竹やリンゴを食べているときにペロッと舌をだすクセがあります。「桜浜は本当にマイペースな性格です。寝ているときや食べているときには、スタッフの呼びかけを無視することもあります」と飼育スタッフ。暑い時期は涼しいモート(堀)で寝ていたのですが、一旦熟睡すると呼んでも反応してくれないこともあるのだそうです。
ちなみに呼ぶとすぐ来てくれるのは前回紹介した末っ子の楓浜。これについては「成長の度合いによっても異なります」と教えてくれました。
お誕生日にもマイペース!
ふたごの妹・桃浜とは4歳になるくらいまで一緒に過ごしていた桜浜。2頭がじゃれる姿はとてもかわいくゲストにも人気。仲良く並んでミルクを飲む姿はぬいぐるみのようでした。
時には大好きなタケノコを巡ってバトルを繰り広げることもありました。両端からタケノコにかじりつく姿は、まるでポッキーゲームのよう。最後は2つに折れたタケノコを、並んで食べるほほえましい姿も。
しかし、そもそもパンダは単独で暮らす生き物です。桜浜と桃浜もバックヤードでは別々に休むなど、徐々に一緒ではない時間を増やし、段階を踏んでひとり立ちしたのだそうです。
2022年12月2日に、日本での最後の誕生日となる8歳を迎えたばかりの桜浜。当日朝はパークでお誕生日の様子をYouTubeとインスタライブで配信し、夜には有料のお誕生会も開催されました。
当日朝のライブ配信では「パンダラブ」にて、向かって左側の運動場には桜浜用に桜モチーフと8の数字、「OUHIN」「HAPPY」の氷が、右側の運動場には桃浜用に桃モチーフと8の数字、「TOUHIN」「BIRTHDAY」の氷がそれぞれのスペースに用意されました。
入り口が開いてさっそうと登場した桃浜をよそに、なかなか出てこない桜浜。やっと出てきたあとは、プレゼントの氷に興味を示さずに夢中で竹を頬張っていました。このマイペースっぷりに「それでこそ桜ちゃん!」と、ファンも大喜びでした。
好きな食べ物はなに?
食べて寝てを繰り返して過ごすパンダですが、朝一番の開園直後にはモリモリと竹を食べる姿が見られることが多いです。グルメなパンダには右利きが多いとされますが、桜浜は左利き。そのためか、竹の選り好みは少ないそうです。
ちなみにパンダの利き手とは、葉っぱを食べる時に持っている方の前あしのこと。パンダの前あしには5本の指に加えて、親指と小指側に手首の骨が大きくなってできた第6、第7の指と呼ばれる2つの突起があり、これらを使って上手に竹をつかみます。
「どのパンダもまず竹のにおいを嗅いで、おいしそうと思った竹だけを食べます」と、飼育スタッフ。竹へのこだわりが弱いという桜浜も、食べる前にしっかりとにおいを嗅いでいます。食べている姿に出会えたら、しっかりと観察してみてくださいね。
さらに桜浜、たまに動きを止めてすっとフリーズしてしまうことがあります。なぜなのか訪ねると「音が気になっているのだと思います」(飼育スタッフ)とのこと。パンダはあまり目が良くないぶん音に敏感で、バックヤードで竹を準備する音などを聞き取っているのだそう。このフリーズ、母親の良浜(らうひん)もよくやっています。お母さんのクセを受け継いだのかもしれませんね。
最後にパークスタッフから、桜浜へのメッセージをいただきました。「「桜浜」は、小さい頃から舌をぺろっと出す癖とマイペースな性格でみなさまに愛され、私たちに癒しを与えてくれています。「桜浜」の名前の由来は日本を代表する桜の花のように見る人すべての心を和ませ、愛としあわせをもたらすパンダとして、大らかに成長して欲しいという願いが込められています。2月に中国へと旅立つことが決定しましたが環境が変わっても、たくさんの人の心を和ませ、愛としあわせをもたらすパンダとして、大らかに成長してほしいと思います」。
生まれたときから私もずっと見守っていた桜浜。運動場に出てきてすぐにお水を飲み出すなど、マイペースな行動でみんなをなごませてくれました。桜の名前にピッタリな美パンダに成長した桜浜が、良い環境に恵まれて、中国でもマイペースに過ごせるように祈っています。
【次回(2023年1月10日公開予定)はふたごの妹パンダ・桃浜についてお話をうかがいます】
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日本パンダ保護協会会員であり、明浜・優浜の名付け親でもある二木繁美による、桜浜を含む日本で暮らすパンダたち13頭を紹介する『このパンダ、だぁ~れだ?』(講談社/講談社ビーシー・1430円)が、2022年12月1日に発売されました。飼育員さんたちのインタビューなど、さまざまな角度からパンダたちの魅力を知ることができます。姿だけでなく、つむじやおしりなどからパンダをあてる、ややマニアックなクイズもお楽しみください。