現在、日本には中国に次いで多い13頭のパンダがいますが、実はそのうちの7頭が和歌山「アドベンチャーワールド」(和歌山県西牟婁郡)で暮らしています。日本一パンダの飼育頭数が多い施設なのですが、父の永明(えいめい)、桜浜(おうひん)、桃浜(とうひん)の3頭が、中国・四川省の成都にあるジャイアントパンダ繁育研究基地へと旅立つことが発表されています。
「上野動物園」のシャンシャンは2月21日に、永明、桜浜、桃浜も2月22日に予定しています。1月20日から2月21日までは検疫期間となり、ブリーディングセンター屋内にてガラス越し(検疫状況により1頭〜2頭まで)で観覧できます(⼈数や時間の制限を実施予定)。
パンダライター・⼆⽊繁美によるパンダ連載、楓浜(2022年11月29日公開)、桜浜(2022年12⽉22⽇公開)に続く第3回は、桜浜のふたごの妹・桃浜(とうひん)をご紹介。身近でお世話をしているパンダチームのみなさんにお話を聞きました。
桃浜ってどんなパンダ?
同パークでは初めてとなるメスのふたごとして2014年12⽉2⽇に⽣まれた、ふたごの妹パンダの桃浜。4頭の兄と姉はすでに中国にわたっており、現在は父・永明、母・良浜、ふたごの姉の桜浜、結浜、彩浜、楓浜の妹たちと暮らしています。まるでふっくらとしたおにぎりのような三角な顔。姉の桜浜(おうひん)より小さめな耳は毛も短めで、横から見ると鼻が長くてお父さんの永明(えいめい)に似ています。
性格は好奇心旺盛。活発に動いておてんばなのに、かまって欲しがる桜浜に対して知らんふりで塩対応するなど、少しクールな一面もあり、ギャップがかわいいパンダです。
8歳という年齢もあるのか、妹たちよりもしっとりと落ち着いていて、寝相も比較的おとなしい桃浜ですが、よく寝起きに後ろ足をかいているそうです。寝覚めのすっかり油断した姿は、まるで「あ〜あ、よく寝た〜!」という声が聞こえてきそうですね。
竹の好みは?
父親の永明に似てグルメな桃浜。どんな竹が好きなのでしょうか。竹は季節や種類によっておいしい部位が変化するようで、「桃浜が好む竹は、品種や部位が決まっているわけではなくて時期によって違います。その時期に一番おいしい、栄養価が高いものを選んで食べているのです」と、飼育スタッフ。
同パークでは、竹を取り寄せるだけではなく、さまざまな種類のものを育てています。姉妹が暮らすパンダラブの近くに3年ほど前に植えた、台湾が原産と言われる緑竹(りょくちく)。桃浜はいっこうに興味を示さなかったそうですが、今年やっと食べてくれたのだそう。飼育スタッフは「桃浜が気に入ってくれたので安心しました」と、うれしそうに話してくれました。
この緑竹。夏頃に採れるタケノコは、豊かな香りとシャキシャキした食感を持ち、台湾の美食家達の間では「タケノコの王様」とも呼ばれています。しかし桃浜はタケノコには見向きもせず、幹にあたる稈(かん)の部分のみを食べたのだそうです。
固い稈はしっかりと外皮をむいて食べるので、おなかの上にたくさん皮を乗っけている姿を見ることができます。
本来であれば、栄養豊富なタケノコはパンダの大好物。タケノコの季節はちょうどパンダの繁殖期にもあたります。交尾や子育てのための体力を必要とする時期、栄養価の高いタケノコはマストな食べ物なのかもしれませんね。
世界でも珍しい12月生まれの桃浜。多くのパンダは春に発情して夏から秋にかけて出産するため、12月生まれのパンダは、桜浜・桃浜姉妹を含むアドベンチャーワールド生まれの5頭だけなのです。これはメスの発情に寄り添える、お父さんの永明あってこそ。人間並みに異性への好みにこだわりがあるというパンダ。中国では、桃浜のお眼鏡にかなう、ステキなお婿さんとご縁があるといいですね。
なぜ桃浜はグルメに?
姉の桜浜はあまり竹の選り好みをしません。同じように育ったはずなのに、なぜ桃浜はグルメなのか。飼育スタッフによると「嗅覚が他の個体よりも優れているのではないか」とのこと。元々⿐の利くパンダですが、「桃浜」は「永明」に似て⿐が⻑いため他のパンダよりもさらに嗅覚が優れているのではないでしょうか。ふたごとはいえ、⾷への興味の度合いは違ったようです。
桃浜がグルメの片鱗を見せ始めたのは、桜浜と別れて暮らし始めた2歳頃なのだとか。親やきょうだいからひとり立ちをして、自我が目覚めてくるタイミングで竹の好みもハッキリしてくるのでしょうか。
別居には時間を掛けて段階的にならしていったため、運動場では一緒に過ごし、バックヤードだけ別々の期間が長かったという2頭。最終的には4歳くらいのときに完全に別々の生活となりましたが、長く一緒にいてお互いを覚えているのか、いまでもガラス越しに会ったときにじゃれて遊ぶ、ほほ笑ましい姿が見られることがあります。
最後にパークスタッフから、桃浜へのメッセージをいただきました。「小さい頃から好奇心旺盛で、誕生会やイベントの時などには氷のケーキに興味津々と、ふたごの姉「桜浜」とはまた違った動きを見せて私たちの心を和ませてくれました。お父さんパンダ「永明」に似てグルメな一面もある桃浜。2月に中国へ旅立つことが決まりましたが、きっと中国では美味しい竹に囲まれて幸せな日々が過ごせるのではないかと思います。中国でも多くの人々に愛されて健やかに暮らしてほしいと願っています」。
飼育スタッフさんからのメッセージ通り、竹の選り好みが激しく、気に入らない時は一旦退場するほどグルメな桃浜。扉のすき間から、新しい竹をもらってうれしそうにしていた姿が、いまでも印象に残っています。愛らしい花を咲かせて果実を結ぶ桃のように、どこにいてもあなたのパン生が豊かであることを願います。
3頭を見送る「歓送セレモニー」は 2023年2月21日(火)の夕方にビッグオーシャンで開催予定。オンラインでの配信も予定しています(詳細は未定。決まり次第、公式ホームページにてお知らせ)。
【次回(2023年1月24日公開予定)はお父さんパンダ・永明についてお話をうかがいます】
日本パンダ保護協会会員であり、明浜・優浜の名付け親でもある二木繁美による、桃浜を含む日本で暮らすパンダたち13頭を紹介する『このパンダ、だぁ~れだ?』(講談社/講談社ビーシー・1430円)が、2022年12月1日に発売されました。飼育員さんたちのインタビューなど、さまざまな角度からパンダたちの魅力を知ることができます。姿だけでなく、つむじやおしりなどからパンダを当てる、ややマニアックなクイズもお楽しみください。