現在、日本には中国に次いで多い13頭のパンダがいますが、実はそのうちの7頭が和歌山「アドベンチャーワールド」(和歌山県西牟婁郡)で暮らしています。こちらは日本一パンダの飼育頭数が多い施設なのです(2023年2月14日時点)。みんな同じに見えるかもしれませんが、実は個性豊か。身近でお世話をしているパンダチームのみなさんに、パンダライター・二木繁美がお話を聞きました。
パートナーでもある永明(第4回)と双子の娘・桜浜(第2回)と桃浜(第3回)が、2月22日には中国・四川省の成都にあるジャイアントパンダ繁育研究基地へと旅立つなか、第5回はお母さんの良浜(らうひん)をご紹介します。末っ子の楓浜をはじめ、7回出産し10頭ものパンダを産み育てたベテランお母さんの魅力に迫ります。
良浜ってどんなパンダ?
お母さんの梅梅(めいめい)が来日する前に人工授精で授かっていたこどもで、国内で12年ぶり、アドベンチャーワールドでは初めて生まれたパンダである良浜。お父さんの哈蘭(ハーラン)は、19頭もの父親と言われ、メスにやさしく「完璧な恋人」と呼ばれるほどモテモテだったそうです。なんだか永明に似ていますね。
たくさんのパンダたちが暮らすアドベンチャーワールドで、見分けるときは白い部分が全体的に茶色い印象のパンダを探してください。それが良浜です。お客さんからは「チョコレートパンダだ! かわいい!」という声も聞こえてきます。一般的に言われるかわいいパンダの条件として丸顔と低い鼻があげられるのですが、良浜はどちらにも当てはまる美パンダなのです。
こんがり小麦色に見えるほど茶色いのですが、印刷物やグッズでは色調整によってどうしても白く見えるため、本来の良浜の姿を楽しむには現地に行くことがマストです。ちなみに印刷時の白さは、ファンから「ラウちゃんの美白」と言われています。
こどもたちは真っ白なのに、なぜ良浜だけがこんなに茶色いのかを飼育スタッフに聞くと「元気な証拠としてよく遊んでよく食べるので茶色くなるのではないでしょうか、本来パンダは洗われるのが好きではないのでなかなか洗えないのですが、良浜も昔からあまり水が好きではないのでなかなか洗えません」とのこと。
そんな良浜は寝るのも大好き!「一度寝ると起こしてもなかなか起きません。起きるまでに時間がかかるパンダです」と、話す飼育スタッフ。バックヤードでもお気に入りの場所でぐっすり。寝返りをうちながら定期的にうんちをするため「キレイな等間隔にうんちが並んでいることもあって『ここで良浜寝ていましたよ〜』というのがすぐにわかります」。規則正しいクセがあるのが良浜なのです。
竹の好みは?
グルメな永明や桃浜とくらべて、竹の好き嫌いが少ないのも特徴。でも食べる事は大好き。「同じ場所で、ずっと竹を食べていることが多いですね」と飼育スタッフ。こどもたちが寝ているときも、もりもりと竹を食べる姿を見られることが多いのです。
「他のパンダは竹の皮や稈(かん)をバサッと食べ散らかすことが多いのですが、良浜の場合、長時間同じ姿勢で食べて、同じ場所に食べない部分を置いていくため、食べない部分の枝葉が規則正しく並びます。バックヤードでも同じで、まるで模様のようにキレイに並んでいるので、見つけると『おおっ』となりますね」(飼育スタッフ)。そのまま束ねて捨てやすく、掃除も楽なのだそう。意識はしていないのでしょうが、お片付け上手でスタッフ思いの良浜なのでした。
良浜の子育て
そして、ベテランのお母さんという一面も持つ良浜。パンダのメスの性成熟が4歳から6歳と言われています。お母さんになるのに適した7歳の誕生日を迎えた良浜と、血のつながりがないオスの永明とのペアリングが試みられました。母親の梅梅に似て、気が強いところがあるという良浜とあって、お見合いの現場には、とても緊張感がただよっていました。
パンダのお見合いは、相性が合わないとケンカをしてしまい、どちらかがケガをしてしまうこともあります。良浜のお父さんの哈蘭もメスとのお見合いの時に、大事なところをかまれて大けがをしたことがあったそうです。
そんな周囲の心配をよそに、やさしい永明のリードで交尾はうまくいきました。そして2008年には日本生まれのパンダの初出産として、ふたごの梅浜(めいひん)と永浜(えいひん)を出産。以降には、2010年に海浜・陽浜、2012年に優浜(以上は現在中国)、2014年に桜浜・桃浜、2016年に結浜、2018年に彩浜、2020年に楓浜を産んでいます。
今やすっかりベテランお母さんですが、出産直後の1〜10日くらいは、健康管理のために飼育スタッフが赤ちゃんを預かると、不安なのか鳴きながらウロウロすることもありました。
健康管理のためにこどもを取り上げる時、活躍するのが良浜の大好物・ハチミツです。ハチミツに夢中になっている間に、飼育スタッフがそっと赤ちゃんを取り上げます。同じメスでも上野動物園のシンシンや、神戸市立王子動物園のタンタンはあまりハチミツが好きではないそう。でも良浜にとっては、一瞬こどものことを忘れてしまうくらいの大好物。子育て中のお楽しみなのかもしれませんね。
ラウゴン現る!
お母さんパンダは、生後1カ月くらいまで赤ちゃんを抱っこしたりなめたりして、かいがいしくお世話をします。毛が生えそろい、体温調節ができるようになると抱き方もゆるくなり、地面に置いて竹を食べに行ったりもします。そして生後3カ月くらいになると、赤ちゃんはヨチヨチ歩きを始めて、お母さんとじゃれて遊び始めます。
おてんばな性格の良浜は、おとなになってもこどもの心を忘れない遊び上手。自身のこどもとも本気でじゃれて遊びます。あまりに本気を出しすぎて、こどもを遊具から押し倒したりすることもあり、ファンから「怪獣ラウゴン」と呼ばれちゃったりすることも。でもそこはお母さん大好きなこどもたち。ラウゴンに果敢に立ち向かってはよろこんでいたようです。もちろん良浜も手加減はしますから、大きなケガもなく、みんなすくすくと育ちました。
パンダのひとり立ちは1歳から2歳頃までに行われます。同園ではしっかりと時間をかけてひとり立ちの練習をします。パンダはもともと単独で暮らす動物なので、こどもたちはあっさりしたもの。ひとり立ち後は、ファンからすると良浜の方が少しさびしそうに見えたようです。きっと自身の母・梅梅に似て、愛情深いお母さんなのですね。
いつまでもコパンダのような無邪気さで、私たちを癒やしてくれる良浜。最後にパークスタッフから良浜へのメッセージをいただきました。「アドベンチャーワールドで初めて誕生したパンダの赤ちゃん『良浜』は、とても愛らしい姿とおてんばな性格で、たくさんの方に愛されて育ってきました。母親になってもおてんばは変わらず、子どもと遊ぶ微笑ましい姿で私たちを幸せな気持ちにしてくれました。いくつになっても変わらない可愛さで、これからもみなさまに愛されながら、穏やかな日々を送ってほしいと思います」。
【次回(2023年3月14日)は彩浜についてお話をうかがいます】
29年で20頭ものパンダを飼育してきた「アドベンチャーワールド」のパンダチームによる経験と実績を詰め込んだ書籍『知らなかった! パンダ アドベンチャーワールドが29年で20頭を育てたから知っているひみつ』(新潮社・1595円)を1月18日に販売。永明、桜浜、桃浜の「歓送セレモニー」は2月21日・16時〜16時40分に同パークの「ビッグオーシャン」で開催(入場者は参加費無料・先着順)。ジャイアントパンダ3頭は中継で登場し、「永明」28年の軌跡、「桜浜」「桃浜」の8年の成⻑記録の映像上映、ジャイアントパンダ飼育スタッフ代表から旅⽴つ3頭へメッセージが贈られます。YouTubeでのライブ配信も予定。
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日本パンダ保護協会会員であり、明浜・優浜の名付け親でもある二木繁美による、桜浜を含む日本で暮らすパンダたち13頭を紹介する『このパンダ、だぁ~れだ?』(講談社/講談社ビーシー・1430円)が、2022年12月1日に発売されました。飼育員さんたちのインタビューなど、さまざまな角度からパンダたちの魅力を知ることができます。姿だけでなく、つむじやおしりなどからパンダをあてる、ややマニアックなクイズもお楽しみください。