あと2カ月でロシアがウクライナへ侵攻してからちょうど1年となるが、ドイツのシュタインマイヤー大統領は12月20日、中国の習近平国家主席と電話会談を行い、ウクライナ戦争を終結させるためロシアのプーチン大統領に対して影響力を行使するよう要請した。
同会談で、シュタインマイヤー大統領はロシア軍がウクライナから撤退することは中国と欧州の共通の利益と強調したという。ドイツのショルツ首相が11月上旬に中国を訪問して習氏と会談した際、習氏はウクライナでの核兵器使用に明確に反対する意思を示しており、今回の電話会談もその延長線上にあり、ドイツとしてプーチン大統領と関係を保つ習氏に要請するという極めて現実的な路線を取ったといえる。
仮に、習氏がプーチン大統領を説得し、同大統領をバイデン大統領やゼレンスキー大統領が待つ対話のテーブルに座らせ、ウクライナからロシア軍が撤退し、和平への兆しを主導したならば、習国家主席はノーベル平和賞ものだろう。しかし、これについては2つの思惑があると考えられる。
1つは、習氏がプーチン大統領を説得し、ウクライナ和平を動き出すならば、習氏には以下のような思惑があろう。要は、中国式現代化、社会主義現代化強国を目指す習氏としては、対外的影響力を確保・拡大させる意味では諸外国からの評価、信頼を獲得しておかなければならない。特に、欧米との対立が激しくなるなか、習氏としてはできるだけ多くの欧米諸国と摩擦を最小化しておきたいのが本音で、そういう意味で欧米がロシア批判を強める中、戦争終結や和平で一役を買えば、欧米だけでなくグローバルサウスからも一定の信頼、評価を得らえる可能性がある。ロシアがウクライナに侵攻することで中国にはメリットはほぼ皆無で(あえてあるとすれば、米国が対ロシアに時間を割かれることで対中国が薄くなることのみ?)、むしろ、習氏がプーチン大統領と遠からず近からずのポジションを維持している背景には、“ウクライナ侵攻を黙認する中国”というイメージが国際社会で浸透することを回避したいという本音がある。
もう1つは、和平どころか、プーチン大統領の説得にも動かず、現在のポジションを維持するというシナリオで、そこにある思惑は以下のような感じだろう。すなわち、国内経済の勢いが低下し、反ゼロコロナなど反政権的な動向もみられ、米中対立や台湾問題など課題が山積するなか、習氏としてはウクライナ問題で時間を割かれたくない、首を突っ込みたくないという想いだ。仮に、説得に乗り出したものの、プーチン大統領がそれを拒否すれば、中ロ関係の冷え込みに繋がる可能性がある。
習氏も侵攻を決断したプーチン大統領を良く思わない部分もあろうが、対米国という意味でロシアが戦略的共闘パートナーという“便利国家”であることは間違いなく、その部分で中ロ関係を悪化させたくないという本音もある。また、説得に失敗すれば、これまで積み上げた中国のイメージ低下に繋がる可能性もある。欧米やグローバルサウスの中からは、“所詮、中国の国力はこんなものだ”、“3期目となっても習氏の外交交渉力は大したことない”という声が増えてくることも考えられる。米国にとってはむしろ歓迎という考えもあろうが、習氏にはそういった警戒感もあろう。
以上のような思惑を考えれば、習氏がプーチン大統領を説得する可能性はあっても、ウクライナ和平で主導的役割を果たすことは考えにくいと言えよう。