コロナ禍でテレワークが広がり、いつでもどこでも仕事ができる環境が浸透してきた。メッセージを会話形式でやり取りできる「チャット機能」を取り入れる企業も増え、早朝や深夜に連絡するケースもあるという。ただ、業務時間外にチャットを確認したり、「いいね!」マークを付けて反応したり…。ちょっとした連絡は、残業代として申請しづらいという状況も起きている。労働問題に詳しい三谷社会保険労務士事務所の三谷文夫さん(45)に解決策を聞いた。
「チャットやSNSに返信したり、内容を確認して『いいね!』ボタンを押したり。その行為が業務命令として指示されているのであれば、労働時間だと認められます。もちろん残業代は申請できます」と三谷さん。ポイントは、指揮命令があるかどうか。
労働時間とは、上司などの指揮命令下にある時間。そのため、上司から常に返信するように言われていれば、理論上は労働時間となり、深夜時間帯の連絡であれば、25%の割増になる。つまり時給1000円の場合、1時間深夜労働をしたら250円の深夜手当が発生する。1分当たりでは4円、秒あたりでは円未満。「秒単位で労働時間を計算する会社の例を私は聞いたことがありません。現実的には分単位での労働時間の管理が一般的です」
執拗な連絡はパワハラの恐れ
では、業務時間外の連絡だけど、会社に残業代を申請しづらい…という状況はどうすればいいのだろう。「申請しづらいと考えられる原因は、上司などの業務指示を出す側の労働時間に対する理解不足がありそうですね」と三谷さん。
解決策の一つは、チャットなどでの連絡であっても、場合によっては労働時間になると、上司に認識を持ってもらうこと。「このチャットを見たらすぐに返事をくれ」のように指揮命令下といえる時間であれば、労働時間となって業務時間外であれば残業代が発生することを理解してもらう必要がある。会社がチャットの返信や反応を義務付けているにも関わらず、残業代の支払いを認めない時は労働基準監督署に相談したり、社会保険労務士や弁護士に相談したりする方法もある。
一方で、業務時間外の連絡や執拗な返信の強要は「パワーハラスメント」に該当する恐れがあるという。2020年6月にパワハラ防止法が施行されており、「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」はパワハラに当たるとされている。お客さまに被害が被ったり、会社に大きな損害があったりする場合など、業務時間外や休日に業務指示を行うにつきやむを得ないこともある。だが、その態様が妥当かを考える必要がある。スマホに掛けた後、何度も自宅の電話に掛けるなど、執拗な連絡は業務指示を行うについて相当とはいえずパワハラになる可能性がある。そのため、「管理職へのパワハラ防止教育も大事」と話す。