一人暮らしの義母→狭い3LDKに呼び寄せてみたら、家族ぎくしゃく“生き地獄”…しんどい「マンション同居」の現実

大橋 礼 大橋 礼

「しんどい、マンション同居は地獄ですよ」

そう話し出したのは、都心部に住む京田さん(仮名)です。長男は独立、高校生の娘さん、夫と3LDKのマンションに住んでいます。そこへ義母を地方から呼び寄せたのは5年ほど前のこと。当時、義母は76歳でしたが、畑仕事をしながらひとり暮らしを続けていました。ところが、骨折のため短期間の入院をした後から頻繁に連絡がくるようになりました。

家のローンも残っているし、娘の大学進学、夫の仕事のこともあり、そもそも田舎に戻る考えもない。とはいえ、義母の年齢を考えるといつまでもひとり暮らしというわけにもいかず、長男が独立し部屋があいていたこともあり、義母を呼び寄せる話になったそうです。

「今さら同居?と悩みましたが、とにかく夫の田舎に戻るのだけは避けたいこともあって最終的に同意しました」

こうして50歳を目前にして、70代の義母とのマンション同居がスタート。大変だろうと覚悟の上でしたが、それは想像を超えていました。

「義母は飴玉をなめて最後のほうをペッと吐き出すんだけど、リビングのゴミ箱で普通にやるんです。それが嫌で嫌で」

「お風呂場で下着を洗って、脱衣所のタオル掛けに干すんですよ。長年の習慣なようで、わたしがベランダに干しますと言っても、これでいいと譲りません」

「それからトイレ。義母と同居してからは、トイレと思うと入っていて、しかも長い。イライラするしお腹も痛くなってくる。それに義母が使うと、便器がひどく汚れるんです。日に何度も掃除するのが苦痛でした」

些末なことばかりだから我慢しようと思っていても、日を追うごとに京田さんのいら立ちは増すばかりでした。さらにもうひとつ、同居での意外な盲点があったのです。

それが高校生の娘、つまり孫と祖母の関係です。

遅くまで灯りがついている孫の部屋に、義母はおにぎりやうどんを作っては運んでくる。そして、床にちらかっている衣服を片付けようとする。高校生の娘が嫌がるので、夫から義母に話してもらったそうですが、本人は孫かわいさゆえの行為なので、数日もするとまた同じことの繰り返し。「何度も同じことを言わせないでくれよ!」と息子に怒鳴られた義母は、数日部屋にひきこもってしまい、夫婦で途方に暮れたそうです。

夫が怒鳴ったことを謝り、ことはおさまりましたが、「息子はわたしを怒鳴るような子じゃなかった」「夜食も作ってやらない母親がいるなんて」ふたりで昼ごはんを食べていると、義母の愚痴はそのまま京田さんに向かってくるようになりました。それを京田さんは帰宅した夫に訴えるわけで、最初こそ間に入っていた夫も「オレは仕事もしているんだ、いい加減にしてくれ!」と、夫婦喧嘩が毎日のように続く日々…。

義母が雑巾を持って廊下を拭き出したり、「後でやりますから」と言ってもアイロンをかけようとしたり子ども部屋を掃除しようとしたりするので、京田さんは義母と顔を合わせるのが嫌で寝室で過ごすようになります。ところが、ノックもせずにいきなり義母が寝室に入ってきて「ねぇ、雨がふりそうだよ」と話しかけてくるのに、京田さんは当初、心臓が止まりそうになるほど驚きました。

「それまで昼間はひとりが当たり前だったから、人が立ってることに驚いちゃって。とにかく用事があるならドアの前から声をかけてくださいと話したものの、何度言ってもガシャンといきなり開けてくる。夜だって普通に寝室に入ってきて、夫に話し出すんですから」

義母が嫁いだ頃は三世帯同居の大家族、平屋建ての大きな家で玄関の鍵もかけないような土地柄でした。京田さんいわく「プライバシーなんて言葉は通じない、逆に家族なのになんて他人行儀なんだ」と不機嫌になり、次第に京田さんに対しても「最初から情の薄そうな人だなと思っていた」「ろくなもんじゃない」と言葉もエスカレートしていきました。

それでも京田さんも努力はしました。畑仕事が好きだった義母のためにベランダ菜園をすすめ、地域の老人会やサークルに参加するように一緒に出かけたりもしました。しかし、プランターで野菜を育てるなんて「土の中で根もぎゅうぎゅうでかわいそうだ」と言う義母は早々に関心を失いました。

「それと老人会もダメでした。これは義母のせいではないですけど、長く地元にいる人たちばかりで、“よそ者はちょっと…”という雰囲気なんですよ」

それまで町会や婦人会に関わったことがない京田さんは、「都心でも“地元民”という枠があるんだと初めて知った」そうです。では受講料を払うサークルならと連れ出したものの義母はなじめず、家ではため息をつくか、ぶつぶつと文句を言うばかり。

「そのため息がわざとらしくて癇に障るんです」

「家の中に義母とふたりだと息が詰まる。毎日のように近くのショッピングモールで何時間も過ごしていました。でも考えるとムカムカしてくるんですよ。なぜわたしが逃げるように家から出ていかなくてはならないのか」

2年後。お義母さんは結局、家からほど近い場所にある高齢者向けの賃貸に入居することに。別居になると週末には顔をだし、時には旅行に連れ出し、良い関係が自然と戻ってきたそうです。

「うちはラクなほうだったんですね。そもそもお義母さんは下のお世話など介護が必要だったわけでもなかったし、もっと大変な人がいることも後から知りました。それでも、真っ只中にいる時には地獄と思ったのは事実。わたしは相談されたら、たとえ自分の親でも狭いマンションでの同居はやめたほうがいいとアドバイスします」

この3年間、パンデミックの影響を受けてお義母さんとはガラス越しでしか対面していません。義母の表情は穏やかでいつも一生懸命に手をふってくれるので、京田さんは何度も振り向いてしまうのだそうです。そして最後にこう言いました。

「人生100年時代とニュースで流れるたびに、わたしもいつか子ども達の重荷になってしまうのかな、そうならないためにはどうしたらいいんだろう、いったい幸せな老後ってどんな暮らしなんだろうって考えてしまうんです」

   ◇   ◇

内閣府の2022(令和4)年版「高齢社会白書」によると、75歳以上になると要介護の認定を受ける人の割合が大きく上昇するといい、その数はおおよそ4人に1人(23.1%)になるのだそう。2025年には、戦後の1947〜49年に生まれた「団塊の世代」全員が75歳以上になることも併せて考えると、たとえ今は元気でも老いていく親のケアは、多くの40代〜50代の子世帯が今後、直面していく現実なのです。

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