「助走は最後の2歩をトップスピードで」「しっかりとイメージを作って」。亀岡中(京都府亀岡市内丸町)のグラウンドに、陸上の棒高跳びの指導者2人の声が響く。生徒は長くてしなやかな棒を使って、ぐんと伸び上がり、高く跳躍する。
陸上部顧問の石橋佑介教諭(38)が「丹波地域から全国大会に出場する選手を育てたい」と話せば、八木敬介教諭(29)は「2人であーだこーだ言いながら生徒に教えるのは楽しい」と笑う。2人はかつて、競技の道をともに歩んだ師弟コンビだった。
出会ったのは、八木さんが八木中(南丹市八木町)の3年生だった春。亀岡市運動公園で開かれていた練習会に参加し、亀岡で教師になったばかりの石橋さんがいた。
周囲に専門的な指導者がいなかった八木さんは、学校の垣根を越えて石橋さんの「教え子第1号」に。月2回ほど教えてもらうようになった。石橋さんは「小さいけどセンスがあると感じた」、八木さんは「お兄ちゃんみたいで親しみやすかった」と振り返る。
思い出に残っているのは夏の府大会。試合中、石橋さんは八木さんに、今まで使ってたものよりも約30センチ長いポールで跳ぶよう指示した。恐怖心を抱える八木さんは「絶対行ける」との後押しを信じ、意を決して踏み切った。見事に使いこなし、自己ベストを一気に70センチも伸ばした。
本年度、八木さんが転勤し、一緒に陸上部を指導するようになった。丹波地域は練習設備が十分整っておらず、中学生で全国大会に進んだのは女子の1人しかいない。「早く男子の出場者も出したい」。2人が中学時代に達成できなかった夢を、教え子に実現してもらおうと、日々生徒と向き合う。
棒高跳びを指導する師弟コンビは、北桑田高(京都市右京区京北下弓削町)にもいる。陸上部顧問の藤川義之教諭(63)と、逸見俊太さん(29)だ。
マットやバーを乗せる支柱など、競技場さながらの設備がそろい、陸上部員9人は全員棒高跳び選手。昨年5月に「ろう者の五輪」デフリンピックブラジル大会で銅メダルを獲得した3年生の末吉凪さん(18)=亀岡市内丸町、亀岡中出=も、2人の下で技術を磨いた。
藤川さんは「ずっと棒高跳びに力を入れてきたわけではなかった」。北稜高(左京区)陸上部の顧問時代、重点を置いたのは自身も選手経験がある走り高跳びだった。2008年、同高の生徒だった娘が棒高跳びを始めたことが転機に。他校の先生に指導を仰ぎ、一から勉強した。
その翌年、機を合わせるように、逸見さんが入学。持ち前の向上心と「十ではなく、最も必要な一だけを教えてくれる」指導で記録を伸ばし、インターハイにも出場した。
昨年度、藤川さんが逸見さんを部活動指導員として北桑田高に招き、2人で教えるようになった。練習メニューの大半は逸見さんが考え、週1~2回直接指導している。藤川さんは練習環境の整備に力を入れる。
棒高跳びは他の陸上競技に比べ、競技人口が少ない。だからこそ「技術をきちんと身につければ、すぐに上位へ行ける」。高く輝く新星を育てようと、2人の指導に熱が入る。