「どなたか亡くなられたんだろうなあ…」
ブックオフの100円コーナーにずらりと並んだ岩波文庫の画像がSNS上で大きな注目を集めている。この画像はボードゲーム愛好家のかわうそさん(@kawauso_kaizard)が愛知県豊田市のブックオフで撮影したもの。
岩波文庫に油紙のカバーが付けられていたのは1987年発刊分まで。今となってはこのタイプの岩波文庫がこれだけ大量に揃っている光景はたいへんレアだ。
かわうそさんの投稿には、SNSユーザーからせっかくの蔵書が散逸することを惜しむ声、家族が亡くなった際に大量の蔵書を処分したことがあるという声、"せどり"と呼ばれる転売行為を警戒する声などさまざまなコメントが寄せられている。
今回の投稿についてかわうそさんにお話をうかがってみた。
中将タカノリ(以下「中将」):岩波文庫が大量に入荷されていることを紹介しようと思われたきっかけをお聞かせください。
かわうそ:今回の岩波文庫に限らず、ブックオフやリサイクルショップを回っていると「誰かのコレクションが放出されたのだな」というものを時々見かけます。今回もそのうちの一つで「どなたか亡くなられたんだろうなあ…」と言うだけのツイートでした。自分もオタクですので、せっかくのコレクションなら欲しい人の元に届いてほしいという気持ちがあったとは思います。
中将:蔵書家の方が亡くなった後、貴重な書物が廃棄されたり散逸してしまう問題についてどのようにお考えでしょうか?
かわうそ:コレクションは、有名なものの合間に貴重なものやマイナーなものが混ざっているという状態が普通です。誰もがわかる貴重なものだけで揃えられたコレクションというのは少ないと思います。どこからどこまでが価値があるものなのか、どこに持っていけば正しい価値で引き取ってもらえるのか、売れば少しは遺族の利益になるのか、売るより同好の知人に引き取ってもらうほうが良いのか…それは集めてきた人が一番理解できていると思います。古書に限らずコレクションというのは場所を食いますし、価値がわからないままでは二束三文で廃棄されてしまうのも仕方ないでしょう。
なのでコレクターは万が一の時のために、コレクションの内容について書き残しておくのが一番だと思います。「故人が大事にしてきたものを、価値もわからないまま処分するのは気が重い」と、残される方にさらに負担をかけないようにしたいですね。
中将:今回の反響へのご感想をお聞かせください。
かわうそ:正直、ここまでたくさんの方に反応していただけるとは思ってもいませんでした。厳しい声も多く頂きましたが「世間ではよくある風景」の一つだったと思います。実際に遺品整理に当たられた方からのお話や遺品ではなく終活としての処分のお話もいただき、収集癖のあるオタクとして自身の終活を見つめるきっかけにもなりました。良い経験をさせていただいたと思います。ありがとうございました。
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かわうそさんが紹介した結果、ブックオフにあった岩波文庫は数日で大半が売れてしまったそうだ。高齢化社会ということもあり、今後も貴重なコレクションが手放される機会はますます増えてゆくことだろう。その際、周囲の人に価値が理解されないことで廃棄されてしまう物品が少しでも減ることを願いたい。