「つらい」と思っても、黙って本音を抑え込んでしまう―。そんな男性たちが、匿名で悩みを話せる電話相談窓口が増えている。この十数年間で2倍となり、全国では78カ所に。仕事や夫婦関係、セクシュアリティ…。相談内容はさまざまだが、「男らしさ」という価値観に苦しめられている人が多いという。
「妻と子どもが家から出ていった」「仕事が見つからない」。大阪市を拠点にする「『男』悩みのホットライン」には多くの相談が寄せられる。開設は第1、2、3の月曜夜7~9時。相談員は相槌を打ちながら、話に耳を傾ける。「どうしたらいいですか」。相談者からの問いかけに、相談員で代表理事の福島充人さん(39)=兵庫県加古川市=はこう答える。「そうですね…どうしたいと思っていますか」。相手の意向を引き出すように会話を続ける。
1995年に開設したホットラインには、2021年末までに2874件の相談があった。相談は、▽家族▽仕事▽性的思考などに関する性▽性格・生き方▽-などに分類。福島さんは、多くの相談に共通することとして「男らしさ」に縛られることを挙げる。「『男なんだから我慢しなさい』『男なんだから泣かない』など、子どもの頃から親や周りに男らしさを強調されてきた人もいます。大人になってその価値観に苦しめられている人も多い気がします」と分析する。
30歳で白血病「あと10日働いたら死ぬよ」
福島さん自身もそうだった。臨床心理士の資格を取得し、小学校のスクールカウンセラーとして働いていた30歳の時だ。学校で子どもたちと鬼ごっこしていると、突然息切れを感じた。大きな病院で精密検査。だが、待ち合い室にいても一向に名前が呼ばれない。「まだですかね?」と聞くと、「すぐに入院してください」。医師に告げられた病名は、白血病だった。カウンセラーの後任が見つかるまで入院できないと伝えると、こう言われた。「あと10日働いたら死ぬよ」
半年間の入院を経て翌年春に退院。5年生存確率は40%だった。当時付き合っていた彼女からは別れを告げられた。仕事もない、いつ病気が再発するかも分からない男と一緒にいるのは酷だ。そう思って受け入れた。「やっぱり心のどこかで『男なのに』というのはありました。当時は、収入や職業がある男性が、女性といる条件だと思っていましたから。何もかも失って、何のために生きているのか分からなくなっていましたね」
相談では「正しいか悪いかで相手を判断しない」
そんな時に助けられたのが、ホットラインの研修会だ。研修会とはいうものの、雑談会のような雰囲気。病気のこと、仕事への不安、彼女と別れたこと…。相談員は、ただただ話を聞いてくれ、涙があふれた。心地よく、自分も同じような相談員になりたいと強く思うようになった。2013年に相談員になり、現在はスクールカウンセラーの仕事も再開。結婚もし、2児の父親になった。
相談で大切にしているのは、受け入れられているという感覚を持ってもらうこと。そして、正しいか悪いかで相手を判断しないこと。例えば、「嫁と娘が『DVを受けた』と主張して家を出ていった」という男性からの相談。DVの現場を見たわけでもないし、男性の話しか聞いていないため、偏ったアドバイスをすることはできない。「ただ会えない寂しさや、家を出て行かれた怒りは本物だと思う。せめて、気持ちを吐き出せる場になれば」