2023年10月から開始されるインボイス制度。インボイスとは「適格請求書」と呼ばれ、買い手と売り手がそれぞれ取引先からどれだけの消費税を支払ったのか、もらったのかなどを証明する書類のこと。インボイス制度に登録すると、請求書を発行して消費税の申告や納税が必要です。そのため、これまで消費税の納税が免除されてきた免税事業者(年収1000万円以下のフリーランスや自営業者など)もインボイスの対応を迫られる可能性があり、「経理処理が大変」「納税額が増えそう」と不安を抱える小規模事業者の声が上がっています。
インボイス制度が始まると、いったいどうなるのでしょう? 制度が始まる背景や負担軽減の方法、懸念されることなど、「知らないなんて…嘆かわしい!」が持ちネタの税理士でお笑い芸人りーなさんに解説していただきました。
23年10月から始まるインボイス制度 なぜ導入するの?
――23年10月からインボイス制度が始まるにあたって、免税事業者のフリーランスなどもインボイスを発行できる発行事業者になるため、3月15日の期限までに税務署に届け出る必要が出てきました。そもそも国がインボイス制度を導入する理由、その背景を教えてください。
「インボイス制度は、その税率で合っているのか、その取引先は消費税を払っているのか…簡単にいうと消費税をきちんと書かれた紙を出しましょうねというもの。ヨーロッパなど海外では当たり前の制度なんです。日本ではインボイスが必要とされていなかったのですが…消費税10%増税に伴って出てきた軽減税率。食料品など一部は8%にするというややこしい制度がスタートしました。税率がごちゃごちゃになってしまって誤って消費税を納めている方がいるんじゃない?ということで、インボイスがいるんじゃないかという議論が出てきたのです。
もう1つは、税に関する知識不足などからもらう必要のない消費税をもらってしまう益税の問題があります。例えば免税された小規模事業者さんの場合、取引先から支払いを受けた際に消費税もそのままもらって、消費税分だけポケットマネーに入れてしまう人が大半かと。つまり、分からずに10%分もうけちゃっている人が結構いるということです」
――正しい税率での消費税の納付や益税をなくすため、インボイス制度が始まるということですね。その中で特に困る人たちが出てくるようですが…。
「はい。消費税を納める(課税事業者)買い手側の大きな企業などが困るかと思います。例えば、売り手側の取引先がインボイスではないフリーランス。インボイスをやってくれてないから、売り上げにかかる消費税を納付する際に仕入れに生じた消費税分を差し引く仕入税額控除ができない。その引けない分を、企業がかぶらないといけない可能性も出てきます。
さらに困るのが、消費税を納めなくてよかった小規模の免税事業者。取引先からインボイスの発行を要求されるかもしれません。そこで2つの選択に迫られます。消費税の課税事業者になるか、あるいは消費税分1割差し引かれて支払われるか…いずれも減収せざるをえない状況に追い込まれそうです」
「経理処理が大変」「納税額が増えそう」…負担を軽減するために簡易課税制度を使う方法も
――特に免税事業者がインボイス制度に登録して、消費税を納めるようになるのが大きなネックのよう。とはいえ、経費処理も含め、その負担を軽減する方法があるとか。
「負担を少しでも減らす方法はあります。簡易課税制度を使うことです。売上の消費税を計算するだけで、仕入れに使った消費税を割合で出してしまうもの。各業種ごとで仕入れ税額控除の割合が決まっており、その割合の方が消費税をたくさん引いてもらえる方は簡易課税を取った方がお得になります。例えば、あなたの業種は税率60%ですよと言われたのに、自分の仕入れの実際の金額が60%にいっていなかったら、本当は仕入れの税額を払っていないのに60%にしてもらえます。実質仕入れの税額を払った分よりも高い金額で消費税を控除してもらえるからおすすめです。
また条件として、年収5000万円以下の事業者は簡易課税制度を選択が可能。こちらも事前届け出が必要です。ただ消費税を納めなくてもよかった小規模事業者さんからすると支払う必要がなかった税金を払うことになるので、実質的には負担が増えることにはなりますが…」
――インボイス制度導入にあたり現在の状況は?
「現場は混乱しています。制度スタートと同時に登録番号を発行しておきたいという方は3月15日までに登録してね、といわれています。3月15日以降の申請になると、登録番号が制度スタートの10月1日までに発行されない可能性があります。例えば、23年4月に取引先から『インボイスにしてほしい』と言われる場合もあるかもしれません。そういった場合、税務署が締め切り期限を延ばすこともあるかもしれませんね。現時点ではおおよその方向性が出ている状況ではありますが、今回10月に施行されるインボイス制度に関わる法改正の最終的なすり合わせは、おそらく3月までに成立するような感じではないでしょうか」
「こんなに面倒なら会社員のままでいいわ」という人も出てくる?
――懸念されることは。
「こうした税金の改正というのは、現場が対応をしなければならない改正が入るたびに『本当はもう少し事業を続けられたんじゃないの?』という方たちが振り回されてもう事業辞めますという方も出てくる可能性が。見ていると制度が変わるたびに心苦しいです。今回も混乱が予想されます。『こんなに面倒なら会社員のままでいいわ』という方も出てくるかもしれません。
国はここ数年、起業や副業を推し進めるために、個人事業主さんを優遇するような改正もしてきたのですが、今回のインボイスで起業を諦めるという方が出てきてはもったいないなと感じます。起業副業を目指す皆さんも、正しい知識を身につければ怖い制度ではありませんので、情報を集めて新しい制度にも向き合っていただきたいです。私もそんな皆さんに貢献できるように、楽しく税金の話を発信していこうと思います」
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【りーなさんのプロフィール】
松竹芸能。芸歴3年目のお笑い芸人。100年続く実家の老舗税理士事務所を継ぐ。祖父の代から3代目。現在は、税理士としても活動しながらお笑い芸人に。国内最大級スキルシェアサイト「ストアカ」でも講師を務めている。5歳娘のママ。
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