どこかで見た「巨大なカニ」 コロナで閉店も、もう一度…70歳男性の思いが詰まったオブジェだった

山陰中央新報社 山陰中央新報社

 島根県松江市東出雲町出雲郷の国道9号沿いに巨大なカニの置物が登場した。うわさによると、かつて松江の繁華街・伊勢宮のシンボルだったという。どんな経緯で今の場所に移動したのか、調べた。

 「巨大なカニ」があるのは、山陰道の東出雲インターチェンジから国道9号沿いに西へ約500メートルの場所にある飲食店「すし博多」。店頭の看板には「グルメ産直回転寿司(ずし)」とあり、新鮮さが売りの回転すし店のよう。店の入り口横に高さ約3メートル、幅約6メートルの巨大な松葉ガニの形をした「巨大なカニ」の置物が異様な存在感を放っていた。大きくて、国道を走る車から目につきやすい。

 かつて伊勢宮にも同じような巨大なカニの置物があった。海鮮居酒屋の「海鮮問屋博多」で、店の入り口上部に飾られていた。巨大な動くカニ看板で知られる「かに道楽」(大阪市)さながらの見た目で、地元では有名だった。2021年3月に店舗が閉店した際、「巨大なカニ」もどこかに消え去った。

 コロナ禍で閉店、一度引退するも…

 すし博多の永瀬豊代表(70)に尋ねると、店頭にあるカニは伊勢宮にあったカニと同じ物だと教えてくれた。永瀬代表は、海鮮問屋博多の代表も務めていた。約35年前から、市内外で回転ずし屋やちゃんこ料理屋といった飲食業を経営し、店舗を構えるごとに同じカニを店頭に飾ってきたという。

 海鮮問屋博多は約15年前のオープン以降、本格的なカニ料理を楽しめる店として人気になり、宴会などでよく利用された。しかし、20年に新型コロナウイルスが流行したことで客足が途絶え、店は大打撃を受けた。業界に長くいた経験から、永瀬代表は「飲食業界はもう終わりだ」とすぐにコロナ前のようには戻らないと判断し、21年3月に閉店した。

 その後は昔からの趣味だった、ニシキゴイや金魚、メダカの飼育を事業にし、養殖や販売を開始した。ビジネス以外でもコイやメダカを眺めて癒やされていたが、長年、携わった飲食業界への未練はなかなか捨てきれなかったという。

 閉店から1年以上が経過し、飲食業界が徐々に回復の兆しを見せ始めたタイミングで、知人から「所有する土地にあった店が空いた」と連絡が入った。永瀬代表は「もう一度、飲食店をやりたい」との思いを抑えきれず、特に家族層に人気の高い回転すし店を開くことを決め、10月3日にオープンした。

 「カニ」は前の店の閉店後、倉庫に保管していたが、新しい店のオープンに合わせて再登場させることにした。永瀬代表は「横歩きなので伊勢宮から東出雲までとても時間がかかったが、また親しんでもらえるとうれしい」と笑った。

 本物志向で食材厳選

 永瀬代表は、限定魚介類や旬の魚ネタを地元や国内外から用意していると言い「提供するのは全国展開の回転ずしチェーン店では味わえないものばかり」と胸を張る。

 永瀬代表によると、多くのすし店や海鮮料理を提供する店は、魚市場で水産物を競り落とす仲買人から食材を仕入れる。漁業協同組合JFしまね認定の仲買人でもある永瀬代表は、魚市場から直接、食材を仕入れる。より安く、新鮮な食材のため、代表自ら毎朝午前6時に競り場に出向き、買い付けているという。

 メニューは全部で約150品あり、提供されるのは基本的に当日の朝取れた新鮮なもの。アワビ(550円)や伊勢エビ(1980円)など一部は生きたまま提供する。価格は、朝獲れの生サバが380円、松葉ガニ60グラムがのった「かに身メガ盛り」が880円、北海道産の生ウニは990円。永瀬代表は「全国チェーンの回転ずし店と比べると高く見えるかもしれないが、味が分かる人には分かる。常に本物志向で食材を厳選している」と品質の良さをPRする。

 また、店舗(360平方メートル)は1650平方メートルに及ぶ広い庭園に囲まれ、池には永瀬代表が育てた金魚やコイ数百匹が元気に泳ぎ回る。永瀬代表は仕事の片手間にその様子を眺めるのが好きだと言い「コイや金魚たちがいたからこそ飲食に戻ってこられた。趣味と商売を同時に楽しめて、ぜいたくな毎日を送れている」と満足そうに笑った。

 突如、国道9号沿いに現れた「巨大なカニ」がいる店は、男性が70歳にしてコロナ禍から再起を懸けて立ち上げた、こだわりのすし店だった。すし博多は通常席が74席で、宴会場は40席。営業時間は午前11時~午後10時で、不定休。

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