ヨーグルトパン 発祥は島根? 誕生に込められた亡き父のエピソード、一口かじれば幸せな気持ちに 

山陰中央新報社 山陰中央新報社

 島根発祥の食べ物といえば「ぜんざい」や「割子そば」が有名だ。ぜんざいは、江戸時代初期の文献「祇園物語」などに出雲地方発祥と記載があり、神在(かみあり)祭で振る舞われた「神在(じんざい)餅」に起因するという。割子そばは松江が発祥で、江戸時代に野外で食べるため、重箱にそばを詰めたのが始まりだ。

 こちらも松江発祥なのか。城下町の面影を残す松江市石橋町のパン店「パンェブール」の店先に「ヨーグルトパン発祥の店」との立て看板。店内には、個包装された白くて丸いヨーグルトパンがずらり。イチゴや抹茶など味のバリエーションもあり、説明書きには「1980年代にパンェブールで誕生した」とある。

 店主の桑原裕紀さん(47)に聞くと、パン店を始めた父親が考案したという。50年前、家業の雑貨店の一角にパンコーナーを開設した父が、市内の問屋から勧められたヨーグルト風味のクリームを、焼き上げたパンに注入する形で誕生させた。問屋がそのクリームを一番に卸した先が同店で、「発祥と言わせてもらってもいいかなと思った」という。

 その父親、新しいもの好きで、今では当たり前となった、陳列したパンを客がトングで選び取るスタイルをいち早く松江市内で導入した。町内のリーダー的存在でもあったというが、桑原さんが小学3年の時、30代半ばで亡くなったという。

 その後、母親が店をつなぎ、17年前に桑原さんが継いでからも、ヨーグルトパンは開発当時とほぼ変わらない原材料、焼き方で店頭に並び続けている。ふわふわな生地に、甘酸っぱいクリームがベストマッチで、多いときは1日に百個売れるとか。

 なるほど、明確に「発祥」とは言い切れないかもしれないが、先駆けであったことは確かだろう。何より40年来変わらぬ味を楽しめるのは、市民にとってうれしいこと。県外に暮らす出身者から注文が舞い込むこともあるという。

 個人的には今年に入って、上司からおすそわけしてもらい、初めて食べた。一口目からどこか懐かしく、幸せな気持ちになったのは、親子の歩みが隠し味となっていたからだと、発祥の秘密を知って合点した。

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