手洗いのとき「ハンドソープを使わない保育園」に衝撃…衛生的に大丈夫?時代に反していない? “保護者の疑問”を医師に聞いた

わたなべ こうめ わたなべ こうめ

コロナ禍での寒い季節では、風邪や胃腸炎、インフルエンザなどを含めた感染対策として、手洗い・うがいの徹底が呼びかけられています。しかし、最近保育園を見学した友人から気になる話を聞きました。その園では手洗いの際に「ハンドソープを使っていない」そうなのです。

伸び伸びと遊ぶ子供たちの外遊び終わりの出来事

Nさん(愛知県在住、30代)は、6カ月の娘さんの保育園探しで、家から職場に向かう途中にある保育園に見学に行ったときのことを振り返って話してくれました。初めての体験でドキドキしながら見に行くと、保育園児たちは伸び伸びと園庭で走り回っていました。

園児一人一人をちゃんと見てくれている先生も好印象で、ここに決めようかと思っていた時です。

「みんな!お片付け終わった子から手を洗って教室に戻るよー!」

先生の声に反応して園児たちが片づけをし始めました。園庭でのお外遊びの片づけを終えた園児たちが、水道で手を水洗いをして教室に入っていくのですが、そこにはハンドソープを使う子は一人もいません。先生も手をちゃんと洗っているかを確認はしているものの、ハンドソープで洗わないことには何も触れていないようです。

疑問に思ったNさん。手を洗う流しをあらためて見ると、なんとハンドソープが一つもないことに気が付きました。ポンプ式どころか、固形石鹸すらも見当たりません。

コロナ禍で手洗いを徹底する状況が常識になっているというのに、時代に反しているのではないか…。Nさんにとって、ハンドソープが見当たらない流しの情景はあまりにも衝撃的で、その後悶々としながら家に帰りました。

「ハンドソープが一つも用意されていないことは、一般的なことなのか」「ハンドソープを使わないのはなぜなのか、保育園に聞いてもいいのか。聞くのはおかしいのだろうか?」…。その時の様子を振り返ると、拭え切れない疑問が続々と出てきてしまったといいます。

ほかの園でも手洗いは「水だけ状態」

なお、Sさん(高知県在住、20代)も、4歳の息子さんが通っている保育園での手洗いに疑問を持っています。こちらの園でも流しにハンドソープは用意されておらず、手洗いは「水だけ状態」です。

息子さんがいつもハンカチを砂と水でべちゃべちゃにして帰ってきていたため、「まだ手洗いが上手にできないのかな?」と家でも手洗いの仕方を教えるように。しかし、一連の動作について伝えていると、息子さんから「保育園にはあわあわするのがないんだよ!」と言われたのです。最初は上手にできないことへの反発で言ったのかと思ったSさんですが、よくよく聞いてみると本当に石鹸やハンドソープがないようなのです。

まさかと連絡帳に書いてきいてみましたが、保育園からの回答は「その通りです。子どもたちも問題なく元気に過ごせているのでご安心ください」とのことでした。

「でも、砂がハンカチについているということは水だけでは汚れが落ちていないっていうことですよね。別で消毒をしていたとしても、やっぱり不安です」とSさん。

厚生労働省のガイドラインはあるけれど…

保育園での手洗いに、石鹸を使わないことに問題はないのでしょうか? 奈良県で小児科クリニックを営む、竹綱庸仁医師に厚生労働省の「保育所における感染症対策ガイドライン」などを参考に意見を聞きました。

――保育園ではどのように手洗いをすればいいのでしょうか?

まず、総論的な話をさせていただきます。そもそも手洗いは何を目的に行っているかです。手洗いは手についた雑菌や異物を洗い流すことが目的です。したがって、園で流水でも「手洗い」を行っている点については、最低限の感染予防策は取られていると考えて差し支えないと思います。

しかし、流水での「手洗い」を行った後に、「手を振り回して自然乾燥させる」「タオルを使いまわして水分を取る」などといった行動は、逆に感染を拡大させる可能性もあり、一人一人がペーパータオルなどでしっかり水分をふき取ることが大切になります。

――保育園で石鹸を使っていなかったことが気になったそうですが…

厚生労働省が作成している「保育所における感染症対策ガイドライン」では、確かに石鹸を使用した「手洗い」が推奨されています。しかし「固形石鹸を使用した場合には管理の問題から逆に不潔になる可能性」があるほか、「液体せっけんを使用する場合でも、注ぎ足しを行わず使い切り、使い切った後には洗浄し、乾燥させてから補充する」などの細かい管理が必要となります。

すべての園でガイドライン通りの感染予防策を取るべきだとは思いますが、現状では保育士の人員確保が困難である場合や、大都市と地方での保育環境の違いもあり、手が回らず「感染予防をしたつもりが逆に感染拡大の要因になってしまった」ということも起こりえます。

したがって、管理上の問題から「感染を拡大させない要因を除去する」という観点から、石鹸を置いていない施設もあると考えられ、一概に「石鹸を使用しない手洗い」が間違っているわけではありません。

私見にはなりますが、幼稚園、保育園では手の洗い方も十分理解できていない可能性もあり、流水で指の間まで手洗いを行う、その後しっかり水分をふき取ることの方が、石鹸を使用するより大事であると考えます。

ーーそうなんですね。ではより良い感染症対策(手洗い)のために園にはどのようなことがもとめられますか?

各園で最大限の取り組みを行っていくだけでなく、その感染予防策を保護者のみなさんに理解してもらえるように伝えていくことが大切です。

保育園では低年齢から就学前の幅広い年代の子どもが通いますが、「〇歳はこのような手洗い方法」「〇歳はこのような手洗い方法に加え、手の洗い方を歌を通して一緒に学んでいます」といったようなことを伝えて、園児の家族に対策を可視化することが大切です。そういったことがしっかり伝わっていれば、Nさん・Sさんが感じたような、保護者の疑問は解消されるのではないでしょうか。

◆竹綱庸仁(たけつな・のぶひと)たけつな小児科クリニック・院長。研修医終了後より大学病院で約7年間、風邪の子どもから集中治療を要する子どもまで幅広い診療に従事。2009年に小児科専門医を取得し、2013年より生駒市の二次医療機関で小児科の立ち上げの仕事に携わる。

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