車窓から見える大屋根の建物の正体は? 大阪の企業が目指す福利厚生施設の新しいカタチ

脈 脈子 脈 脈子

 大きく突き出た木製の屋根に、オレンジ色の光に優しく照らされた空間が垣間見えるガラス張り...。大阪府高槻市明田町に現れた、なんだかおしゃれな建物。電車の中などからその姿が見えて、気になっている方もいるのではないでしょうか。この建物の正体はいったいなんなのか、取材しました。

人にも環境にも地域にも優しい建物

 この建物に付けられた名前は「T-LINKS」。実は、高槻市に本社を置く太陽ファルマテック株式会社(以下、太陽ファルマテック)が建てた主に社員向けの福利厚生施設です。企業と地元市民が繋がる(リンクする)場所になってほしいとの思いを込めて、社名と、高槻市のローマ字表記の頭文字である「T」を冠しています。

 バブル期には多くの企業が保有していた保養所などの福利厚生施設。バブル崩壊後には次々と姿を消し、その運営にかける費用は1996年以降、減少し続けています。そんな時代に堂々たる姿を現した「T-LINKS」は、自律型人材を求める太陽ファルマテックの、社員が力を最大限発揮できる環境を提供したいとの思いがこもった施設です。

 また、地震や水害など有事の際には一時避難所として被災者にも使ってもらえるよう、高槻市および近隣の自治会とそれぞれ協定を締結。被災者が安心して過ごせるよう、さまざまな工夫が凝らされています。さらに、街の景観を損ねないようにと圧迫感を感じさせない設計になっていたり、地域に自生する植物を敷地内に植林したりなど、地域と自然への配慮も行き届いているという印象を持ちました。さて、気になる内部は?

ただただ羨ましい!至れり尽くせりの内部

 会議室、カフェテリア、テラス、和室など、さまざまな施設がぎゅっと詰まった3階建ての「T-LINKS」の中でも特に目を引いたのは、アリーナと呼ばれる体育館。太陽HDに所属する東京五輪バドミントン女子シングルス日本代表の奥原希望選手が監修しています。3階ぶち抜き、床から12メートルある天井は、バレーボールの公式ルールで規定されている12.5メートルに限りなく近い高さ。社員のレクリエーションはもちろん、ここから世界へと羽ばたくアスリートが生まれてほしいという願いが込められた、本格的な作りになっています。

 アリーナの向こうには太陽HDグループ会社が運営する社員食堂「嵐山(らんざん)食堂」が見えています。「T-LINKS」では、いたるところに日本ならでは自然と文化が表現されたデザインが散りばめられており、カフェテリアには和紙で雲海を表現した天井が。水墨画を見ているようで、心がすっと凪いでいくような感覚を覚えます。

 テーブルや椅子の形、しつらえはエリアによってさまざまで、その日の気分や目的によって選ぶ楽しみも。ちなみに椅子はぜんぶで7種類もありました。

 2階に上がると、アリーナを見渡すことができる会議室が目に飛び込んできます。空間を広々と贅沢に使っていて、羨ましい...!頭上にはモダンだけれど優しい光を放つ照明、足元に目を向けると芝生のような深い緑色のふかふかしたカーペット。パーソナルスペースがしっかり確保できる空間での会議は、心理的安全性から生産性が上がるという研究結果もあるようですし、こんな場所で会議したならきっと議論がはかどるんだろうなぁ。知らんけど。

 さらにトントントンと3階に上がると思いきり足を伸ばしてくつろげる和室が2つ。社名と地名にちなんで、それぞれ「太陽」「高月」という室名が付いています。壁面には、淡路島で代々左官業を営む家に生まれ、現代左官アーティストとして国内外で活躍する久住有生氏の作品で仕上げられるなど、空間全体にゆとりを感じます。真新しい畳の香りが清々しいこんな場所で、休憩時間を過ごせるなんて。何度も言うようですが、社員の方が羨ましい!

手がけたのはスポーツ施設設計の雄

 モダンな建物ながらも木や漆喰、和紙など日本伝統の素材を活かし、ぬくもりを感じる「T-LINKS」。設計したのは東京オリンピック・パラリンピックのメイン会場となった新国立競技場を、隈研吾氏とともに手がけた川野久雄氏です。

 川野氏は自らの希望で1990年代からスポーツ関連施設を担当し「日環アリーナ栃木」や「札幌ドーム」など数多くのスポーツ施設を手がけてきました。「T-LINKS」の象徴とも言える特徴的な大屋根の下にしつらえた開放的な憩いのテラスで、人々が生き生きと集う、昔の日本建築に見られたような良さを、現代に合わせアレンジしたと川野氏は話します。

 テレワークの増加など働き方の変化があっても人が集まることを大切にしたいという太陽ファルマテックの佐藤英志社長は「企業の福利厚生施設は一般的にはクローズドな施設だが、T-LINKSは将来的にはコミュニティ施設にもなり得る。地域に寄り添うランドマークにしていきたい」と話し、一般利用についても検討していくとの意向を示しました。いずれ、イベント等で中に入れる日がくるかも?今後のあり方にも注目です。

 何度でも言いますが、ほんとに、ほんとに、羨ましい...!筆者の住む街にも、こんな施設ができないかなと願わずにはいられません。人を想う優しさと、地域と企業をつなぐ場をつくりたいという思いに溢れた太陽ファルマテックの「T-LINKS」。こんな施設が日本中に増えるといいですね。

おすすめニュース

気になるキーワード

新着ニュース