「鎌倉殿の13人」尾上松也さん演じる後鳥羽上皇ゆかりの地 マツの縁でザワつく地元「知る人ぞ知る場所です」

 

山陰中央新報社 山陰中央新報社

 隠岐の島へ流された後鳥羽上皇(1180~1239年)が配流前に立ち寄り、歌を詠んだとされる地が鳥取県境港市にある。現在、NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に関連して後鳥羽上皇が全国的に注目されているが、地元では「上皇が配流前に立ち寄った最後の地」としてスポットが当たることに期待している。

 

 「鎌倉殿」は鎌倉幕府の2代執権で、北条氏による幕府の統治を確立した北条義時(1163~1224年)の生涯を中心に描くドラマ。脚本は古畑任三郎などで知られる三谷幸喜さんで、主演は人気俳優の小栗旬さん。物語のクライマックスは、歌舞伎俳優の尾上松也さん演じる後鳥羽上皇が、義時を打倒すべく起こした承久の乱(1221年)になると予想され、上皇やゆかりのある場所に人気が集まっている。

 2021年が配流から800年の節目だったこともあり、隠岐の島の人気は高まっている。島根県が発表した県内主要観光施設の22年8月の入り込み客数によると、上皇を祭る隠岐神社(島根県海士町)は1330人で前年比250%増になった。前年が新型コロナウイルス禍で観光客が少なかった影響があるとはいえ、客足の伸びが目立つ。

休憩に立ち寄り、配流の悲しみを歌に

 境港市の上皇ゆかりの地は、旧上道村役場の裏手のひっそりとした場所。「皇(おう)の松」の名で知られるマツと木々が合計5本あるほか、上皇が読んだとされる歌が彫られた高さ3メートル以上(土台含む)はあると思われる立派な石碑が建つ。

 境港市史や、「皇の松保存会」の足立利昭会長(78)によると、上皇は乱の後の1221年7月、配流のために京都を出発し、山陽方面から伯耆(鳥取県)の山を越えて出雲国の安来港に到着(配流ルートは諸説あり)。船で隠岐に向かう途中、当時は浜辺だった現在の上道町に船を寄せた。浜辺には大きなマツがあり、その下に座って疲れを癒やしたという。マツがあった場所が、現在の皇の松がある所だと伝わる。

 上皇は和歌が得意だったことで知られる。この時もマツの下で「天が下 おほふ袖だになきものを しばしはゆるせ 浜まつのかげ」と、本土との別れを悲しむ歌を詠んだとされ、石碑にはその歌が刻まれた。上皇は隠岐に配流された後にも複数の和歌集を出したが、配流される最中に詠まれた歌の存在はあまり知られていない。

 また、上皇がマツの下で休憩中、近くに住んでいた老人が、そば粉で作ったもちとお茶を差し上げたとの話も伝わる。上皇はその優しさに感激し、持っていた小刀とマツに関連した「松下」の姓をお年寄りに与えたという。位の高い上皇と地域の人との接点があったとは驚きだ。

現存のマツにも新たな縁が

 残念ながら、上皇が休んだとされるマツは1897年に枯れた。周辺のマツを後継にするなどして、現在、残っているのは5代目。ただ、この5代目のマツにも上皇にまつわるエピソードがある。

 1995年、3代目だったマツが年末年始の大雪で折れてしまった。保存会が近くのマツを4代目としたが、生育が悪く、早く枯れる可能性があった。上皇と境港市との縁が切れてしまう危機だった。

 悩んだ保存会が2011年、かつて上皇の遺骨が納められた後鳥羽院御火葬塚(島根県海士町海士)の関係者に相談すると、塚の敷地内にあったマツの苗木が提供された。その後もさらに数本の苗の提供があり、現在は皇の松の敷地内に、塚ゆかりの木々が立ち並ぶ。上皇ゆかりの地としてだけでなく、境港市と島根県海士町の友好のきずなとしても地元で親しまれている。

 旧上道村役場の裏手に回ると大きな鳥居と石碑、社があり、その後ろに皇の松が構える。5代目とはいえ高さは約7メートルとなかなかに大きく、周りに木々があることであまり日光が差し込まない。周辺には住宅もあるが、交通量は少なく、とても静かで、集中できそうな場所。上皇が訪れた当時から約800年の歳月が流れたが、座って休憩すれば歌の一つでも浮かびそうに思えた。

地元住民から「ドラマ効果」に期待の声

 保存会では上皇との縁を地域で大事にするため、1991年から毎年夏に「皇の松まつり」を開催している。祭りでは詩吟団体を招いて上皇の歌を詠み上げるほか、隠岐民謡のしげさ節を披露したり、屋台を開いたりして地域を盛り上げている。住民みんなで踊る「皇の松音頭」まであるそうだ。足立会長は「知る人ぞ知る、後鳥羽上皇ゆかりの場所。ドラマの影響で注目されるようになれば、住民としてとてもうれしい」と目を細めた。

 ドラマ人気に着目し、地元の上道公民館では皇の松の伝承に関する史料をはじめ、承久の乱の解説パネルや、ドラマの登場人物の手作り相関図を展示し、機運を盛り上げている。清水厚志館長(66)は最近、レンタル自転車に乗って皇の松周辺を巡る、ドラマファンとおぼしき数人を見かけると言い「上皇の知名度が上がれば、上道が注目される可能性も高まり、住民も喜ぶ。ドラマによって良い効果が生まれればいい」と期待した。

 約800年前に上皇が訪れたとされ、住民と交流し、さらに上皇が崩御した地のマツまで植わる境港市上道町。偶然にも、ドラマの後鳥羽上皇を演じるのは尾上松也さんで、ここにも「松」が登場し、より縁を強く感じる。ドラマ効果で隠岐の島だけでなく、山陰両県のさまざまな場所にスポットが当たってほしい。

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