「『なぜマジメに練習してるウチの子が試合に出してもらえないんですか?』と親から問われた顧問が、『もし嫌われたとしても、“努力が必ず報われるわけではないという現実”を教えるのも私たち大人の役目です。それに思い出づくりではなく、勝つためにやっています』と答えたという話。ぼくは好きです」
ネクタイを製造する株式会社笏本縫製の代表であるしゃくさんこと笏本達宏さん(@shakunone)が、自身の人生哲学を部活のエピソードに絡めてTwitterで紹介。そのツイートが8万以上のいいねと9千近くのリツイートが付く反響となっています。
笏本さんが紹介されているのは、とある学校の部活動での話。自身の子供が試合に出られない理由を顧問に問う親。「マジメに練習しているのに…」と生徒の親は言いますが、それに対して顧問はこう答えます。
「“努力が必ず報われるわけではないという現実”を教えるのも人の役目です。それに思い出づくりではなく、勝つためにやっています」
試合に出られないわが子を不憫に思う親の気持ちも分かりますが、それよりも顧問の言葉が強く胸に突き刺さります。“勝つ”という目標を掲げながら、子供たちに現実を教える――顧問の先生なりの「教育論」が伝わってきます。
このエピソードについて「ぼくは好きです」と語る笏本さん。ツイートのリプ欄にも多くの反響がありました。
「勝ちにガチでこだわるから、分かる事がきっとありますよね!」
「こう言える顧問が、勝利至上主義でない事が推察できます」
「大人になったら『世の中、そんなに平等じゃない』と思う」
「勝つチームは試合に出ていない支えている部員も大切な部員ということを認識していると思います」
「試合に出ること以上に大切で、貴重な経験を親が取り上げてしまったら、その子にいったい誰が教えるんだろう」
「そのようなしんどい経験を踏むのはとても大事。大人になってから笑い話にもなりますぞ」
近年、学校では生徒同士の不平等をなくすよう、運動会の徒競走でも順位を決めないなどの方針をとる傾向があります。しかし、大人になれば厳しい現実に直面し、競争社会の荒波に揉まれることに。その予行演習として、子供の頃から「勝敗」や「思い通りにならないこと」の体験や、「試合に出る出ないにかかわらず、同じ想いを仲間と共有する」経験をさせることも、教育上大切なことのようにも思えます。
しかし、賛同のコメントが寄せられる一方で、このような意見もありました。
「勝つのは部活動の目的ではありませんけどね」
「部活で頑張ったけどどうにもならなかった、という思い出は後を引くし、その経験があって良かった!って思ったことは一度もないなー」
人によっても合う合わないがあります。勝ち負けや仲間と思いを共有することが良い経験になる人もいれば、逆にそれがかえって負担になり、むしろ自由にのびのびと過ごした方が個性や能力が活かせるような人もいるでしょう。どちらが良いとは一概に言えないのかもしれませんね。
ちなみに、笏本さんはこの顧問について、「練習試合では広く機会を与え、その上で公式戦はシビアに。レギュラーメンバー以外への指導。ちゃんとしてたと思います」ともコメントされています。強い人だけを優遇するのではなく、部員全員にチャンスを与えていたとのこと。方針が良いかどうかについては意見が分かれるとしても、少なくとも生徒の教育に対して熱心に取り組む、素晴らしい先生であることは間違いないようですね。
ツイ主も悔しさを味わった…だからこそ得られた気づき
このように、リプ欄では賛同の声、反対の声まじえて、さまざまな意見が飛び交っています。
もちろん、投稿した笏本さんは、この顧問の言葉に対して好意的。当該のエピソードに加えて、自身の考えや体験談も紹介されています。
その中で、笏本さんは「結果より過程」ではなく、「結果にこだわった過程」が大切であると語っています。大人になり、家業の町工場の3代目として、事業を引き継いだ笏本さん。何度も現実に打ちのめされながらも、何とか生きられているのは、過去の積み重ねのおかげだといいます。
その一つが、高校時代の部活での経験。笏本さん自身も、最後のインターハイ予選でレギュラーの座を1年生に奪われ補欠に回されるという、悔しさを味わったことがあったのでした。しかし、その際に監督から、「喜びも悔しさも、両方知っているお前が、これから一番強くなる!」と言われ、その言葉は今の自分にも影響を与えているといいます。
まさに自身も、「マジメに練習したのに試合に出られなかった」という経験をされていたのですね。だからこそ、一連のツイートには説得力があり、多くの人たちの心を打ったのかもしれません。
笏本さんに、さらに詳しく話をおうかがいしました。
――最初の部活に関するツイートですが、お知り合いのエピソードですか?
笏本さん:昔、自分の身の回りで起きたことではありますが、人物が特定されないように、聞いた話ということで納めていただければ幸いです。ですが、最近同じようなことがサッカーの強い高校でもあったという話も聞いています。
――似たような経験をされる方は多いのかもしれませんね。笏本さん自身も、そのような経験があるとのことですが。
笏本さん:剣道部でしたが、必死の思いで2年生の冬に勝ち取ったレギュラーを、春に入学した1年生に譲ることになりました。ただ、それは自分から監督に申し出たことでもありました。勝つためだったので。最後の最後は試合に出られず、めちゃくちゃ悔しかったけど、チームで1つでも多く勝ちたかったので。
――それだけチームに対する思いが強かったのですね。素晴らしいと思います。その時のご自身の経験からどのようなことを学び、後にどのようなことでご経験が活かされたと思われますか?
笏本さん:私は、いつ倒産するかもわからないような家業の町工場を継いだ3代目です。それまでは、どんなに苦しい状況でも「努力さえしていれば報われる」と思っていました。しかし、大人になって感じた社会の現実は厳しくて、思うように結果が出なかったり、それこそ負けたり、挫折したりすることは山ほどありました。その中で、大人になると「結果より過程」という考え方では他人から評価されないのではないかと強く感じるようになり、「より結果にこだわった過程」が初めて結果に繋がると、仕事への向き合い方を変えてきました。
――若者がこれから未来に向かって成長するうえで、どのようなことが大切だと思われますか?
笏本さん:若者に可能性を示したり、楽しさを教えることも大切ですが、逆に厳しさや現実を教えることも大人の役割だと思います。「夢は叶う」「努力は必ず実る」など希望ある言葉を否定しているわけではありません。ただ、頑張っていれば評価されていた学生の時代から、急に結果を求められ結果がでなければ生きることさえ難しくなる現実に放り出されてしまう現状で、若者が潰されないようにしないといけないとは思っています。だからこそ、一生懸命に結果を追求した経験をしてほしいなと思います。
◇ ◇
学生時代の悔しかった経験も経て、社会の荒波を生き抜くための気づきを得た笏本さん。これから自分たちの未来を創っていく子供たちにも、「結果を追求した経験を――」と願います。
そんな笏本さん、現在は株式会社笏本縫製の代表として、ネクタイのオリジナルブランド「SHAKUNONE(笏の音)」を手がけています。笏本さんのご活動については、まいどなニュースでも以前取り上げさせていただきました。
■笏本達宏(しゃく)さんのTwitterはこちら
→https://twitter.com/shakunone/
■ネクタイブランド『SHAKUNONE(笏の音)』はこちら
→https://shakumoto.co.jp