学習意欲が高かったり、優秀な子どもたちが、高い能力のために子どもたちの中で浮いてしまったり、学校になじめなかったりすることが問題になっています。「浮きこぼれ」という言葉で知られてきていますが、画一的な授業に物足りなさを感じて不登校になるケースや、同級生と違うことで孤独を感じたり、いじめの被害にあったりすることもあるようです。実際に小学校で浮きこぼれてしまった子ども(3年生)がいる由起子さん(40代・主婦)に話を聞きました。
――どのようなお子さんでしたか。
娘は幼稚園の頃には、掛け算や簡単な漢字の読み書きができました。4歳から将棋を習っていたので、将棋の駒から自然と漢字を覚えていたようです。語彙力や言語能力がとても高い子どもだといわれることもありました。
親としては普段の娘を見ているので、特別賢いと思ったことはなく、それよりも気が強い一面があったため、そちらのほうが心配でした。5歳の頃には、将棋教室の5年生の男子から「俺より将棋弱いくせに」とバカにされ、悔しかった娘は口げんかで相手を言い負かし、泣かしてしまうようなこともありました。
――小学校に入学してからの学校生活はどうでしたか?
担任から「勉強ができること」で怒られる日々でした。
1年生になった娘は学校生活を楽しみにしていましたが、宿題のプリントに漢字を書いてみんなの前で担任からこっぴどく怒られ、算数も習っていないことをするなと言われていました。私自身も担任から「塾に行かせてるんですか?勉強ができたら困るんです。授業はクラスの最下位の子どもの学力にあわせているんです」と注意をされてしまいました。なにをやっても怒られるので、娘の顔から笑顔は消え、やる気を無くして何もしたくないと言うようになりました。
――お友達との関係はうまく築けていましたか?
授業中に騒ぐ男子や、娘の勉強を邪魔する女子が何人もいたため、煩わしさを感じていたようです。娘の物を取り上げたりすることもあり、あまりにもしつこいときは娘が激怒することもあったようです。
学校側からは「彼女は勉強ができて、ハキハキしているため、クラスでも目立つ存在です。そのため彼女のことをねたんだり、疎ましく思う同級生もいます。そういう同級生にとって彼女は邪魔な存在なんです」と言われ、大変ショックを受けました。
――先生との関係はどうでしたか?
とてもよくしてくださる先生もいましたが、口が立つので、娘とやりあう先生もいました。
先生が娘に間違った知識を教えたことがあったのですが、娘に間違いを指摘された先生が、腹を立て口論になったそうです。先生が「ダンゴムシは虫だ」と言ったのに対し、娘が「エビやカニの仲間で甲殻類だ」と反論したことが事の発端でした。娘にはトラブルになるので、「先生の間違いは指摘しなくていい、聞き流せばいい」と伝えましたが、不服な様子でした。
――その結果、現在はどうされていますか。
学校は娘にとって、居場所がなく、とてもつらい場所になっていました。そこで娘と話し合い、娘の気持ちを最大限に尊重して「学校との決別」を私たちは選択しました。
勉強ができれば教師から怒られ、周りからは授業妨害をされ、安心して学ぶことができないと感じられたので、家庭学習と塾に切り替えました。学校には籍だけを残している状態です。学校との連絡も必要最低限とし、こちらから連絡することはありません。家庭では本人の学力レベルに合わせたテキストや、興味に合わせた図鑑などを購入して、勉強をしたり読書をしたりしています。
塾はマンツーマンの授業です。娘の興味にあわせてわかりやすく説明してくださるようで、表情が生き生きしています。塾の授業がはじまるまでの2時間は自習室で勉強をしていて、わからないところは、塾長に教わっているそうです。塾では月例テストや公開模試が行われていて、成績優秀者として自分の名前が毎回張り出されるので、娘のやる気につながっているようです。
文部科学省の今後の取り組みに期待
浮きこぼれてしまった子どもたちへの支援が必要だということは、以前から指摘されてきました。文部科学省は2023年度から「特定分野に特異な才能のある児童生徒」の支援に乗り出すとしています。具体的な支援内容としては「一人ひとりの才能に合わせた柔軟な授業作り」「学校になじめない子どもを支援するNPOなど学校外の組織との連携」「才能と障害を併せ持つ児童生徒への対応」などがあげられており、2023年度中にも効果的な指導法や支援策をまとめるとされています。
ただし、文部科学省は今回の支援策を英才教育とは位置づけておらず、「過度な競争をまねく恐れがある」としてIQなどの基準に基づく才能の定義づけは行わないとしています。
今まで見過ごされてきた浮きこぼれの子どもたちが、学力や能力にあわせた支援が受けられるようになれば、学校でいじめを受けたりや疎外感を感じることも減るのかもしれません。
「勉強ができても怒られない環境や、本人の学力に合わせた授業が受けられること、勉強を邪魔されることなく集中して受けられることに期待しています」と由起子さんは話してくれました。