「お客様の中でお医者さまはいらっしゃいますか?」飛行機や新幹線で耳にするドクターコール どんな医者も躊躇する  

ドクター備忘録

松本 浩彦 松本 浩彦

 私が医者になって3年目、東京で開かれる日本外科学会総会に参加するため、金曜20時京都駅発の新幹線に乗りました。発車後10分ほど経った頃「お客様の中でお医者さまはいらっしゃいますか」と車内放送が流れました。乗客の急な体調不良とのこと。さてどうしたものか。

 ちょっと待てよ。自分は外科学会総会に参加するため、この新幹線に乗っている。しかもこの列車は博多発。同じように明日から学会に出席する教授・助教授クラスの大物外科医が何人も乗っているはず。研修医に毛が生えたような自分がノコノコ顔を出しても、邪魔者あつかいされるだけだろうと、もういちど車内放送が流れるまで行かないことにしました。

 それから10分ほどで再び車内放送が流れました。身体が緊張する私。「急病のお客様を病院に搬送するため、次の岐阜羽島駅に緊急停車いたします」やっぱり、偉い外科の先生が乗っておられたんだ。ところが車内放送はまだ続きます。「お集まりいただいた大勢の(・・・)お医者さま、ありがとうございました」あぁ行かなくてよかった。逆に恥をかくところでした。

 飛行機や新幹線でドクターコールが流れた時、どんな医者も躊躇(ちゅうちょ)します。自分の手に負えなかったらどうしよう。誤診したらどうしよう。不安がよぎります。でも何も行動しないと、あとでずっと後悔が続くでしょう。

 新約聖書には「善きサマリア人の法」というのがあります。急病人を救うために善意でできる限りのことをしたのなら、失敗しても責任を問わないという教えです。米国ではこの考えが法律化されていますが、日本ではまだ議論の途中で、法律として立法化されていません。その辺り、早く何とかして頂きたいと思うのですが。

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