声優業界の厳しい現実…7割が年収300万円以下 インボイス制度によって2割強が「廃業覚悟」

黒川 裕生 黒川 裕生

消費税の仕入額控除の方式として「インボイス制度」が、ちょうど1年後の2023年10月にスタートする。制度に反対する声優3人(咲野俊介さん、岡本麻弥さん、甲斐田裕子さん)が今年8月に立ち上げた有志グループ「VOICTION(ボイクション)」が、声優の収入実態に関する調査を行ったところ、アンケートに答えた声優のおよそ7割が年収300万円以下、4割が100万円以下で、制度の導入によって2割以上が廃業を検討しているという厳しい現実が明らかになった。

若手の約半数が「年収100万円以下」

制度が業界に及ぼすインパクトを憂慮するVOICTIONは、現場の思いや業界の実情を広く知ってもらおうと活動を展開。それぞれのSNSなどでの情報発信に努めながら、政治家への陳情も重ねている。

反対運動の一環として、VOICTIONは「声優の収入実態調査」を実施。このほど、回答数260件の途中集計結果を発表した。

VOICTIONによると、日本には声優が1万人以上いるとされるが、アンケート結果からは、72%が声優としての収入が300万円以下であることが判明。とりわけ20代、30代の年収が低く、約半数が100万円以下であると回答した。

VOICTIONは「アンケートの呼び掛けがTwitterやVOICTIONの公式サイトで行われたことから、回答者は比較的若い世代に偏っているとみられる」ことに留意しつつも、それでも全体の9割以上が消費税の納税を免除されている免税事業者(年収1000万円以下)に該当していることを危惧。華やかに見える業界の厳しい側面を、具体的な数字で浮き彫りにしてみせた。

インボイス制度は低収入者の多い声優業界を直撃する

適格請求書(インボイス)を発行できるのは「適格請求書発行事業者」に限られ、適格請求書発行事業者になるには登録を受けなければならない。年収1000万円以下の免税事業者が登録を受けるには、原則として課税事業者になる必要があり、課税事業者になるとこれまで免除されていた消費税の納税が課せられるようになる。

当然、(今回のアンケートでは)9割以上が免税事業者という声優業界にはダイレクトかつ広範囲に影響が及ぶことが懸念される。「インボイス制度が導入された場合、ご自身の声優としての仕事は増減すると思いますか?」という問いには、53%が「減ると思う」、そして23%が「廃業するかもしれない」と回答。「廃業するかもしれない」と答えた人たちの年収は、58%が100万円以下である一方、400万円以上も6%いたほか、年代も40代〜60代が16%を占めていたといい、VOICTIONは「必ずしも低収入者や若年層だけが強い危機感を持っているとは限らない」と釘を刺す。

またVOICTIONでは、声優や俳優だけでなく、漫画家やイラストレーター、アニメーター、文筆業、建設業など多様な業界の個人事業主を対象に「インボイスに関するアンケート」も実施。183件の回答を得たが、実に97%がインボイスに反対だったという。

所属している事務所や取引先などから制度の説明がまだないと答えた人は78%にも上り、逆に「話があった」と答えた人の中には「登録してもらえないと今後の契約は約束できないと言われた」など、圧力と思われる言葉を掛けられたケースもあったという。

VOICTIONは「多くの個人事業主が反対する制度であり、日本国憲法の定める『健康で文化的な最低限度の生活』を脅かし、また『職業選択の自由権』を経済的な側面から実質的に歪める制度であると考えられる」と強く批判。今後も業界内外に向け、制度の概要や問題点について周知していくという。

【調査概要】
調査名称:声優の収入実態調査/インボイスに関するアンケート
調査対象:声優として仕事をしている者/個人事業主
調査機関:VOICTION
調査方法:Webアンケート(Twitter及び公式サイトで告知)
調査期間:2022年9月13日〜(継続中)
回答者数:延べ443人

■VOICTION公式サイト https://voicelessvoice803.wixsite.com/voiction

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