AIを相棒にソロツーリング バイク乗りの心に染みる話題の動画が日本コメディ映画祭で最優秀賞 制作者に聞いた

小嶋 あきら 小嶋 あきら

一人でバイクに乗って、ふと考える

 バイク乗りにとって楽しいのは、やはりツーリングでしょう。大勢の仲間が集まって一緒に走るマス・ツーリングもいいものですが、一人気ままに走るソロ・ツーリングもまた格別です。

 バイクという乗り物はもともと、走っている間は一人です。最近でこそインカムで走りながら会話もできますが、クルマのように同乗者とわいわい話しながら走る乗り物ではあまりありません。

 一人でたんたんと走っているとき、筆者はいろんなことを考えます。個人差があるでしょうが、普段考えないことがあれこれ浮かんでくるのです。「走ること」に思考のリソースが割かれる分、普段より少ない脳細胞で物事を考えるため、常識のタガが外れ気味になって自由な発想に至るのかもしれません。加えて、「バイクでお出かけ」という気分の高揚も影響しているのかもしれません。

コントのようなAIとの会話に垣間見えるバイク乗りの感性

 そんなソロライダーにとって、憧れというか、一つの夢を具現化したような動画作品を見つけました。「AIと旅するおっさん」です。

  「AI旅チャンネル 近未来型旅コント」という説明の通り、コントという短い物語を楽しむ内容で、近未来の高性能車載型AIナビとともにバイクで旅に出て、その道中のまるで喜劇のようなAIとのやり取りを現実と虚構の狭間で楽しむ、というものです。キュートな女の子のAIナビのキャラクターと、渋い低音ボイスのライダー「おっさん」との掛け合いが、実にセンスよく笑いのツボを突いてきます。

 ちなみに「おっさん」という名前は、AIナビとやり取りをする過程でなかば事故のような経緯があってその名前で登録されてしまって、以後仕方なく「おっさん」として旅をすることになった主人公のユーザー名です。

 世代が違ったり、また国籍が違ったり、生活環境や常識の違う人と接した場合に「カルチャー・ショックを受けた」とか言いますが、相手がAIとなるとそれはもう文化どころか生物と非生物、有機物と無機物の違いですから、常に想定の斜め上の反応が返ってくるわけです。そんなAIのぶっ飛び具合と、意外と冷静に対処するおっさんの対比が実に素晴らしいのですね。そしてそんなやり取りの合間合間に見え隠れするバイク乗り特有の感覚、感じ方みたいなものがあって、そこに筆者は痛く共感するのです。これは単なる動画ではなく、まさに上質なバーチャルドキュメンタリー映画だと感じます。

なんと映画祭で最優秀賞を受賞する

 9月17日から19日にかけて、大阪府門真市で「日本コメディ映画祭」というイベントが開催されました。今年から新しく始まった映画祭で、全国から多数の作品が集まりました。その最終審査を通過してスクリーンで上映された19作品の中に「AIと旅するおっさん」がありました。やはりこれ、動画と映画の垣根をぶっ壊す力を持っていたのですね。そしてなんと、この作品が最優秀作品賞に選ばれたのです。

 そこで、喜び冷めやらぬ監督の蟻塚ストローさんにお話を聞いてみました。

 ー監督もバイク乗りだと聞きましたが、どこのバイクに乗っていますか?

 「根っからのスズキ党で、油冷エンジンが大好きです。スズキ党なのはたぶん、おっさんも同じだと思います」

 ーYouTubeに走行しているシーンを載せると、「ここ違反じゃね?」なんてコメント欄が炎上したりすることが多いようですが、その辺り特に注意していますか?

 「とても気にしています。でも、AIヴィータが安全運転をサポートしてくれてますからね。あ、でも、不審者に見られがちなので、そこには特に細心の注意を払っています。あとは極力、人のいない場所や時間帯で撮影しています」

 ー映画祭での最優秀作品賞受賞、びっくりしました?

 「めちゃくちゃびっくりしました。おっさんも実は緊張しいなので、たぶんびっくりしたはずです。ヴィータは「当然です」って言ってたそうですが。とにかく、おっさんとAIナビの旅を楽しんでもらえたことをうれしく思います」

  「おっさん」と「監督」の関係(?)が微妙に気になるインタビューでしたが、とにかく喜びが伝わってきました。AIとおっさんの旅はまだまだ続くようです。気になった方はぜひ、YouTubeでご覧ください。 

 なお「日本コメディ映画祭」はこのあと、10月8日から10日まで秋田県のアウトクロップ・シネマ、11月18日から20日まで愛知県の大須シネマと巡回して開催されます。面白い映画祭ですので、こちらもぜひご覧ください。

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