50ccバイク廃止まで1年 革命的スクーター・チョイノリがもたらしたもの 次世代の電動機は原付転換期の象徴に?

松田 義人 松田 義人

2003年、スズキから衝撃の原付スクーターが発売されました。その名は「チョイノリ」。

「通勤・通学・買い物などのほんの数キロを、ちょっとだけ乗りたい人」に向けたモデルで、その価格は当時の50ccでは最安の「5万9800円」。簡素にも見えるスクーターですが、スズキがこだわり抜いて完成させた革命的な原付バイクでした。

最低限の機能のみで、重量・部品点数とも大幅削減

「ちょっとだけ乗りたい人」をターゲットにしていることから、原付の出力の平均である4.7psをはるかに下回る2psに限定。生産工程の削減、コストカットを図り、後輪の車軸がそのままフレームに直付けされたリジットモデルでした。

また、最廉価モデルはキックスターターのみ。チョークは手動で、燃料計、警告灯もない極めてシンプルな構造でした。結果、当時のスズキの同排気量の従来車種に対し、4割ほどの軽量化を実現。また、部品点数3割を削減、ボルト・ナット類も5割削減を実現させました。

発売初年度に早くも派生モデルが登場

前例のない生産モデルなので、当然企画から開発まではかなりの準備期間を要したと思われますが、果たして発売初年度には5万台出荷という大ヒットを記録します。また、発売同年には、さらに進化させた派生モデル「チョイノリSS」を発売しました。

初代の簡易的なイメージから、一気に従来バイクに寄せたモデルです。

当時流行っていたネイキッドバイクのイメージにも近く、ライトユーザー以外からも注目を浴びることになりました。

図らずも流行した「チョイノリ」カスタム

ただし、前述のようなコストカットからプラスチック部品を多用したことで耐久性が低かった面も否めません。筆者の周りでは「これはバイクじゃない」「1万キロ乗れれば良いほう」といった酷評も多く耳にしました。また、2000年代後半の自動車排出ガス規制の強化に対し、適合モデルが開発されることはなくたった4年で生産終了となりました。

ただし、「バイクは完璧ではないほうが面白い」と考えるユーザーは一定数おり、後には「チョイノリ」の簡易的な構造を逆手にとったカスタムが静かに流行。

アメリカン風、ダートトラッカー風、折り畳み車載カスタムなどが広まり、こういったカスタムモデルを販売する中古バイク業者も登場しました。当初の開発チームは想定外だったはずですが、こういった現象を巻き起こしたのも興味深いところでした。

16年ぶりに再登場した「チョイノリ」は電動だった

2007年の生産終了以来、中古車またはカスタムでしか見かけなくなった「チョイノリ」ですが、2023年の「ジャパンモビリティショー2023」に後継モデルとなる電動バイクの「eチョイノリ」が参考出品されました。

従来の原付の出力と同等の電動バイクの多くがそう遠くは走ることができず、1回の充電で数十キロのみ。この良し悪しはさておき、かつての「チョイノリ」のコンセプトは、図らずもそのまま今の小型の電動バイクに通ずるものでした。現時点での「eチョイノリ」の市販は未定ですが、来たる2025年11月には50ccバイクの新車が廃止されることもあり、近い将来、市販化されるであろうと囁かれています。

50ccバイク廃止の「転換期」代表モデルになるかも?

50ccバイクが廃止される理由は、2022年から施行された「平成32年(令和2年)排出ガス規制」によるもの。バイク、自動車全車種とも適合までに3年の猶予が設けられていましたが、来たる2025年11月でその期限が切れます。

多くのバイク、自動車が基準に適合した生産に切り替える一方、原付は技術・コスト的に難しく、世界的に見てもガソリンの50ccバイクは衰退傾向であることから、事実上の廃止に。そして、これをきっかけにミニバイクの電動化が本格的に進むという見立てもあります。

これまで、今ひとつ本格的に普及に至らなかった電動バイクですが、近い将来登場するであろう「eチョイノリ」が草分けとなり、従来のバイクとはまた違う楽しさを牽引してくれると良いなと思います。

現時点の電動ミニバイクのパワーレベルに図らずもコンセプトや機構が合致していた「チョイノリ」。次世代の「eチョイノリ」は、この転換期を代表する1台になるかもしれません。

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