カリスマからの脱却で注目「日本維新の会」初の代表選 党勢拡大・全国化のカギとは

「明けない夜はない」~前向きに正しくおそれましょう

豊田 真由子 豊田 真由子

日本維新の会の代表選が行われています。

毎週大阪のテレビ局におうかがいしていることもあり、維新の大阪での人気の高さは実感するところですが、一方で、大阪以外の地域との温度差も存在し、また、維新の今後の展開は国政にも影響を与えることになると思いますので、この機会に考えてみたいと思います。

代表選

今回の代表選は、初代代表である橋下徹元大阪府知事から引き継いで、2015年に無投票で代表となった松井一郎大阪市長の政界引退に伴うもので、維新としては初めての代表選になります。足立康史衆院議員(56歳)、馬場伸幸共同代表(57歳)、梅村みずほ参院議員(43歳)(以上、届出順)が立候補しています。国会議員や地方議員ら586人の特別党員と一般党員1万9293人が1票ずつを投じ、8月27日の臨時党大会で決定されます。立候補には、特別党員30人以上の推薦人が必要で、足立氏が39人、馬場氏が306人、梅村氏が30人で、松井市長は馬場氏支持を表明しているという状況です。

カリスマからの脱却?

維新と言えば、橋下徹元大阪府知事、松井一郎大阪市長といったカリスマ性の高い(元)幹部が牽引してきたというイメージが強いわけですが、橋下氏に続き、松井氏が政界引退ということになれば、この先どうやって党運営や政権との様々なやり取りをしていくことになるのか、気になるところです。

元々地域政党である大阪維新の会からスタートし、日本維新の会を設立後も、ともに大阪に本拠を置いています。首長・地方議員(大阪維新の会)と国会議員(日本維新の会)の間などに軋轢もあると言われる中、党代表には、様々な立場の意見を引き受け、相違があっても納得させ、党内をまとめていく強い力と高度な手腕が求められます。

維新の立ち位置

維新は、野党ではあるけれど、保守的な立場を取り、改憲勢力(自公維国)の一翼も担っています。橋下氏や松井氏は、安倍元総理や菅元総理との距離も近く、それぞれの政権下では、直接会合を重ね、政権への影響力を示してきました。そうしたことが繰り返し報道されることの国民や他党への影響というのも決して小さくなかったと思います。(大阪選出の自民党議員にしてみれば、選挙では敵となる相手方と自党の幹部が親密に連携することへの不満は非常に大きなものがあります。これは、どの党でもあることで、選挙・政治というものの熾烈さを考えれば、当然のことといえます。)

そして昨年の衆院選と今年の参院選では、維新は、国防政策などにおいて、自民党以上に保守的な主張を掲げることで、ロシアによるウクライナ侵攻以降保守化が進む一部国内世論を強く引き付け、そして一方で、野党という立場から「改革」を主張することで、政権批判票の受け皿ともなりました。つまり、“与党野党双方のいいとこ取り”ともいえるアプローチで、結果的に得票を伸ばしてきたともいえると思います。

わたくしは、7月10日の参院選の選挙特番において、国政における党の立ち位置や代表選について、吉村大阪府知事に質問をしまして、「維新は、野党ではあるけれど、保守的な立場を取り、改憲勢力の一部をなし、与党幹部との距離も近い。選挙や政策で、他の野党と共闘するということでもない。今後維新は、国政政党としては、どういう立ち位置で、何をどのように為そうとされているのか?」と質問したところ、「『ただ反対するだけ』の野党ではなく、与党と対峙できる現実的な野党を目指す」といったお話でした。

また、吉村知事自身は「大阪府政に注力したいため、代表選には出馬せず、維新の理念を引き継いでくれるリーダーを、執行部の中で支えていく」とのことでした。今回の代表選はそうだとしても、新型コロナ対応などで全国的な知名度のある吉村知事は、引き続き維新の「選挙の顔」であると思いますし、中長期的にどう判断されていくかも、ポイントとなると思います。

党勢拡大の壁

維新は、国政政党として全国的な拡大を目指すという点については、成功しているとは言い難い状況です。

今年7月の参院選では、選挙区で3→4、比例区で3(2016年参院選で4議席獲得したが、そのうち1名が離党したため、改選議席としては3)→8となり、合計12議席を獲得し、野党第二党となりました。ただ、選挙区では、19の選挙区に候補者を立て、そのうち議席を獲得したのは3選挙区(大阪(2議席)、兵庫、神奈川)に限られており、全国的な広がりを欠いているのが現状です。

また、これまでの国政選挙における比例区の得票数と得票率の推移を見ると、2012年衆院選1226万(20.4%)、2013年参院選636万(11.9%)、2014年衆院選838万(15.7%)、2016年参院選515万(9.2%)、2017年衆院選339万(6.1%)、2019年参院選491万(9.8%)、2021年衆院選805万(14.0%)、2022年参院選785万(14.8%)となっています。

ある党への支持というのは、他政党(例:2017年でいえば希望の党)の動向などとも関係してくるわけではありますが、いずれにしても、維新の党勢が思惑どおりに着実に拡大しているとは言えない状況にあります。

党勢拡大に必要なものとは?

維新が大阪で強い支持を得ているのは、カリスマ性の高い指導者たちがいたからということだけではありません。実際に地方政治を担い、それを府民の方が日々身近に見ていることで、「任せて大丈夫」という信頼を得ているということが確実にあります。そして、「痛みを伴う改革」ということで、綺麗ごとばかりを言わないということも、却って誠実に映っているのではないでしょうか。

大阪府内には、大阪府知事・大阪市長をはじめ、維新公認の18人の首長(市町村の約4割)と、241人の地方議員がいて、大阪府議会、大阪市議会では、ともに第一党となっており、国政や他地域の議会とは、状況が大きく異なっています。

そして、そうした地元に根付いた首長や議員が大勢いるということは、選挙の際には組織戦という形で、大きな力を発揮することになります。

選挙は、都市部であれ地方部であれ、「組織戦」と「空中戦」がどちらも大事(比重は地域によって異なりますが)になります。

「組織戦」というのは、その党の党員や、党所属の地方議員の支持者といった形で、その党の強固な支持層を作っていき、そしてさらにそうした人たちの活動によって外側にも支持を拡大していくという形を取ります。

一般の方には少しご想像されにくいかもしれませんが、選挙においては、「その候補者のことはよく知らないけど、自分の信頼している〇〇さんから、『応援してほしい』と言われたから、応援することにする」というメカニズムが、確実に存在します。もちろん候補者は、日々、自分自身で地元を回って、直接会った一人ひとりの信頼を得ていくことが最も大切ではあるのですが、候補者がそういったキーパーソンの気持ちを掴むことができれば、その人が、候補者に太鼓判を押し、いわば“増幅器”のような役割を果たし、支持の輪が広がっていくことが可能になります。

(ただし、今どきは「団体の会長さんや会社の社長さんが号令をかければ、皆がこぞって、指示通りにその候補者に投票する」というような時代ではなく、そういう場合にも候補者自身の努力や魅力が重要になってはきますし、また、「自分は〇票持っているぞ」とか言う人が実は全く信用できなかったりします。やっぱり、政治の世界はいろいろ大変です。)

一方の「空中戦」というのは、日々のメディアの報道や関係者の番組出演、ポスター、チラシ、SNSなどの媒体を通じて、不特定多数の有権者に訴えていく方法です。党や候補者自身が打ち出すメッセージによって形成されるものももちろんありますが、政権や党が普段から行っている活動や問題がどうメディアで報道され、それらを有権者がどう評価するか、といった点も非常に大きいと思います。

また、今夏の参院選での参政党のように、他党と異なるメッセージで新たな支持層を開拓し、街頭演説で支持を広げるといった成功例もあると思います。

さて、前提のご説明が長くなりましたが、維新に限らず、どの政党にも同様のことが言えますが、党勢拡大・全国化の大きなカギのひとつは、やはり、全国の多くの地域に首長や地方議員を誕生させることです。

地元での影響力という点からはやはり首長の力は大きいのですが、いきなり首長を取るというのもハードルが高いので、現実的な路線としては、多くの地域に、地道に地方議員を増やしていくということだと思います。その議員が地元で活動して自らの支持者を増やしていくことが、その党自身の支持者を増やし、支持基盤を形成・増強し、それが国政における議席の確保・党勢拡大にもつながっていくことになります。

また、維新の議員は、国会議員も地方議員も、比較的若手・新人が多いということもあり、カリスマ性の高い幹部たちに引っ張られ、上からの達しのとおりに動く、という傾向が強いと言われます。それは、統制が取れて団結しやすい、という点ではいいかもしれませんが、やはり、それぞれの議員がきちんと自身の足で立ち、独自の考えや政策力等を持って活動するようになることが、個人としても党としても実質的な強化につながり、そしてより良い仕事をするということを通じて、国民への貢献につながるのだろうと思います。

国民への影響

最近の傾向として、「なんでもただ反対するのではなく、きちんと対案を出し、実のある議論をする野党」が志向されるようになっています。こうした中で、いわゆる是々非々(案件により、反対するところは反対し、賛成するところは賛成する)という姿勢で臨む維新や国民民主のような野党が独自色を出しています。

岸田政権においては、安倍政権・菅政権のときほどには、維新との個人的な太いパイプは見られず、「維新と距離を置いてほしい」という近畿圏の国会議員の意見も党内に根強くあります。維新内にも、例えば、今回の足立候補のように党組織の抜本的見直しを打ち出す人もいます。

ただやはり、維新に味方(に近い立場)にいてもらうことは与党にとってはプラスですし、維新にとっても、政権に影響を及ぼす立場であるという独自の存在感を示してきたことの意義は小さくはないはずです。(もちろん、政界は流動的でもあるわけですが。)

橋下元代表は、昨秋衆院選後(11月1日)のテレビ番組で、「(自民党がこれだけ議席数を取ってしまうと)自民・公明のタッグに維新が割り込むということは難しくなる」と恋愛の三角関係に例えて話をされ、そこには維新が与党の一翼を担うという意図も垣間見られます。(松井代表は、「自公と連立を組むつもりはない」と言っておられますが。)

新型コロナ対策、低迷する経済・物価、台湾有事をはじめとする国防問題、宗教と政治の問題・・・、課題は山積です。維新が新たにどの代表の下でどういう方向性を打ち出していくのか、政権とどういう関係を持ちながら政策に関与していくのか、といったことは、決してそれぞれの党内の権力闘争の話に留まらず、広く政局全体や国の政策の方向性にも影響を与えていく可能性があります。国政とも連動する来年春の統一地方選にも注目していきたいと思います。

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