中国で高まる「邦人拘束」のリスク 政治的な揺さぶりの手段のひとつに

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米中による戦略的競争やロシアによるウクライナ侵攻など大国間対立がこれまで以上に激しくなり、日中関係の悪化が日本の経済界で懸念される中、上海の日本総領事館によると、昨年12月に上海で拘束された50代の日本人男性が今年6月、中国当局によって正式に逮捕されていたことが明らかになった。現在のところ、なぜ中国当局が逮捕に至ったか具体的な容疑は不明のままだが、スパイ行為に関与し、国家の安全に関わる容疑が疑われているという。

中華民族の偉大な復興を掲げる習近平指導部は発足以降、国内の権力基盤を固めるため強権的な国内法を次々と施行し、外国企業や外国人をも監視する仕組みを強化してきた。2014年の反スパイ法施行から2015年の国家安全法、2017年の国家情報法、2020年の香港国家安全維持法のように、権力基盤の強化を徹底的に進めている。

6月に逮捕された日本人男性もこの反スパイ法に抵触した可能性が高いが、2015年以降、これまでにスパイの疑いなどで少なくとも16人の日本人が拘束された。


2021年1月には、スパイ容疑で拘束されていた日本人男性2人の懲役刑が確定したことが判明した。1人は2016年に拘束され懲役6年の判決を受け、もう1人は2015年に拘束され懲役12年の判決を受けたが、それに不服申し立てを行った2人は北京にある裁判所に控訴していたが棄却された。2019年9月には、北海道大学の中国近代史を専門とする教授が日本へ帰る直前に北京の空港で拘束される事件があったが、国公立大学の教員という準公務員が拘束されたのはこれが初めてのケースとなった。2019年には他にも、広州市で拘束されていた大手商社の40代の日本人男性が、現地の裁判所からスパイ容疑で懲役3年の実刑判決を言い渡され、湖南省長沙市では50代の日本人男性が国内法に違反したとして拘束されるケースが明らかとなった。

どのケースでもなぜ拘束されたり逮捕されたりしたのか、具体的な理由は分かっておらず、政治的な意図が働いているとの見方が一般的だ。こういった断続的に続く邦人拘束は中国に進出する日本企業にとっては大きな懸念事項であり、しかも反スパイ法に引っ掛かった邦人の多くが起訴され、懲役刑の判決を受けている。

しかし、拘束や逮捕に遭う外国人は日本人に限らない。2019年1月には、中国政治を論評するオーストラリア国籍の作家の男性がニューヨークから広州に航空機で到着した直後に拘束され、その後、現地で逮捕された。近年、オーストラリアと中国の関係が悪化しており、オーストラリア政府は2018年6月、中国による内政干渉を警戒し、外国政府の国内でのスパイ活動や内政干渉を防止する複数の法案を可決したが、こういった動きに中国が反発したとの見方も根強い。2020年9月にも、中国当局が同国国営テレビ局に勤めるオーストラリア国籍のニュースキャスターを拘束していることが明らかになった。

また、同様に中台関係が悪化する中、今年4月、中国で国家政権転覆罪により服役していた台湾のNGO活動家の男性が5年間にわたる刑期を終えて釈放され、台湾に帰国した。同男性は長年中国の民主化を求める活動を行い、2017年3月にマカオから広東省に入った後、中国当局に身柄を拘束された。しかし、これは氷山の一角に過ぎず、中国で理由がよく分からず拘束される台湾人はかなりの数とみられ、当局による強い監視の目に晒されている可能性が高いともいわれる。

今後の日中関係の行方は明るくない。米中対立が激化する中、日本は米国との結束を強化しており、今後中国は日本の外交安全保障政策をよく思わない場合、1つに邦人拘束という手段で政治的な揺さぶりを掛けてくる可能性は排除できない。今後の邦人拘束が極めて懸念される。

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