ウクライナ戦争「2年続く恐れ」との見解も プーチン大統領は自分の首を締め続けている

治安 太郎 治安 太郎

ロシアのウクライナ侵攻が泥沼化の様相を呈するなか、ロシアのカシヤノフ元首相は6月、この戦争は最高で2年続く恐れがあるとの見解を示した。侵攻当初、首都キーウが数日以内に陥落する可能性が指摘されるなど、世界はロシア優勢とみていた。しかし、欧米諸国がウクライナへ軍事支援を強化したことでウクライナ軍の攻勢が顕著になり、ロシアはウクライナ東部から勢力を拡大できず、軍内部からも抵抗の声が根強くなっている。首都キーウの掌握、ゼレンスキー政権の崩壊などプーチン大統領が描いてきた構想は既に夢物語になっている。これまでの4カ月で生じてきたことを振り返ると、現在のプーチン大統領は自分の首を自分で絞めていると言わざるを得ない。

まず、フィンランドとスウェーデンを巡る動きだ。侵攻当初、プーチン大統領の脳裏には「これ以上NATOを東へ拡大させない、ウクライナ侵攻はその抑止になる」との思惑があったはずだが、ウクライナ侵攻によってロシアの脅威を現実のものと受け止めた両国は短期間のうちにNATO加盟申請を正式に行った。

NATOのジョアナ事務次長は6月、ロシアによるフィンランドやスウェーデンへの軍事的脅威は差し迫ったものではないとの見解を示したが、フィンランドとスウェーデンは加盟できるだろうとの予測を示している。これはNATOのさらなる拡大を許さないと考えウクライナ侵攻という決断を下したプーチン大統領にとっては全くの大誤算だったはずだ。ロシアと1300キロに渡って国境を接するフィンランドを、ウクライナ侵攻をきっかけにNATOが覆おうしている現実をプーチン大統領はどう感じているのか。

一方、最近、岸田総理に加え、韓国のユン大統領が6月末にスペイン・マドリードで開かれるNATO首脳会議に出席することが明らかになった。日韓の指導者がNATO首脳会合に参加するのは初めてだ。

そこで日韓首脳会談は開催されない模様だが、ユン政権が誕生して以降、韓国の日米接近、中国離反、対北けん制の姿勢が顕著になっており、NATO首脳会合参加はその延長線上の動きと捉えていいだろう。米国の軍事同盟国である日韓がNATOに接近することをプーチン大統領は当然よく思わない。NATO首脳会合でNATOと日本、韓国が情報共有や軍事訓練などで協力を深めるようになれば、プーチン大統領の神経を逆なですることになり、核の限定使用など返って危険なオプションを踏む恐れも出てきそうだ。ロシアによるウクライナ侵攻は、これまで一定の関係を維持してきた日韓のロシア離れを加速化させ、プーチン大統領が嫌うNATOとの接近という正しく彼がほしくないものを提供する形になっている。

また、それだけではない。侵攻が世界経済に与えている影響も甚大だ。たとえば、国連の中南米カリブ経済委員会(ECLAC)は6月、今年の中南米カリブ海地域の貧困率が悪化するとの見解を示した。地域一帯の貧困率は昨年の33パーセントから0.9パーセント上昇するだろうと予測し、その原因をロシアによるウクライナ侵攻によって物価が急激に上昇するなど経済的な混乱が拡大したことにあるとした。

これまでのところ、小麦や石油など日常必需品の価格高騰が深刻化し、イラクやペルー、スリランカなど世界各地で抗議デモや計画停電、電力不足などが発生したが、今後各地で抗議デモや衝突などがさらに増える可能性がある。こういった世界経済への影響、それによる貧困や失業の深刻化をプーチン大統領はどう考えているのだろうか。

中国はロシアを非難せず、ロシア制裁も実行していないが、国際社会からの避難を避けたい中国としては現在のロシアは簡単に接近できる相手ではない。世界経済への影響が長期化すれば、各国で反プーチンデモのような現象が発生しても決して不思議ではないだろう。

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