「残り3時間…」九死に一生を得た犬が「保護犬の星」と呼ばれる理由 殺処分の対象から一転、フリスビー大会で優勝

松田 義人 松田 義人

あとわずか3時間で殺処分だった保護犬が、フリスビー大会に出場し優勝……この短い期間にその運命を大きく分ける体験をした犬がいます。その名もハカセ。

中型のミックス犬で、保護された際は成犬だったこともあり、譲渡会・SNSなどでも手を挙げる新しい飼い主が見つかりませんでした。そんなとき、ハカセは佐賀県有田町にある保護施設「アニマルライブ」(岩﨑ひろみ代表)と出会います。この出会いをきっかけに、ハカセは後に「保護犬の星」と呼ばれるようになり、多くのメディアで注目を浴びることになります。

このハカセのサクセスストーリーをビジュアルと合わせて紹介した児童書が話題です。『保護犬の星 フリスビー犬ハカセ』西松宏・著(ハート出版)という本です。

 

ここでは、この本のビジュアル・内容と合わせて、ハカセがどのようにして九死に一生を得て、その犬生を好転させたのかに迫ります。

殺処分まで残り3時間……引き取られた保護施設で、才能を開花させたハカセ

とある地域の施設に収容され、期限までに引き取る人が現れなければ殺処分される運命だったハカセ。これを知ったボランティアの博子さん(仮名)という女性がSNSなどを通して、多くの人に新たな飼い主・引き取り手の募集をかけたものの、飼い主はなかなか見つからず、ついには残り3時間で殺処分……という緊迫した状況に陥ります。その投稿を見た「アニマルライブ」代表の岩﨑さんが、手を挙げハカセを引き取ることになったわけですが、その命は博子さん・岩﨑さんの2人によってまず救われました。

後に「アニマルライブ」に来たハカセ。岩﨑さん、そして同施設の週末ボランティアの浦一智さんという男性と、ハカセを施設内のドッグランで自由に遊ばせていたところ、ハカセは30センチほどの棒切れを自分で見つけ、それをくわえて2人のところにまで持ってきます。岩﨑さんがその棒切れをボンと前に投げると、ハカセはすぐに反応し、また棒をくわえて戻ってきます。何度も何度も、それも百発百中で。

岩﨑さんは、ハカセの集中力の高さに秘められた才能を感じたそうですが、さらにここから浦さんとの二人三脚のフリスビー生活もスタートしました。

 

浦さんとの絆を深め、フリスビードッグ大会出場へ!

犬と人間のフリスビーは、野球に喩えれば、ピッチャーとキャッチャーのようなもの。犬にどれだけ才能があったとしても、投げる人間の腕、そして2人のコンビネーションがあってこそ成り立つものです。

ハカセの才能に気がついた浦さんは、限られた週末の時間を使って、何度も何度もハカセにフリスビーを投げる練習をしました。はじめはたった5メートルの距離でさえうまく投げることができず、ハカセもキャッチするのが一苦労。それでも、楽しそうに続けるハカセとの練習を重ねるうちに、キャッチ率もあがり、ハカセとの絆も次第に深まっていきました。やがて浦さんは「もしかしたらハカセはフリスビードッグ大会に出場できるかもしれない」と考えるようになり、出場することを決めます。しかし、この後にもまたとんでもない事態が起こります。

「譲渡犬としては見向きもされなかった犬でも、素晴らしいプレーができることを見せてやる」

フリスビードッグ大会を目前に控えたある日、浦さんは持病の椎間板ヘルニアが悪化。思わぬ事態にくじけそうになったそうですが、浦さんは「譲渡犬では見向きもされなかった犬だって、がんばればこんなに素晴らしいプレーができることを見せてやる」という思いで、痛みに耐えながらフリスビードッグ大会に挑みます。

その結果は……初出場にして初優勝。優勝に導いたのは、フリスビーを正確に追いかけ続けるハカセの才能、その才能を最大限に引き出した浦さんの努力、そして2人の間にある目には見えない深い絆でした。

以降、ハカセと浦さんはフリスビードッグ大会に何度も出場することになり、この後も紆余曲折があった一方、ハカセの活躍によって、それまで保護犬のことをよく知らなかった人が興味を持つきっかけになったり、「犬を飼うならペットショップではなく保護犬を引き取りたい」といった声もそれまで以上に多くなったそうです。ハカセの活躍はめぐりめぐって、多くの命を救う一歩に繋がっていきました。

 

フリスビードッグ大会での成績は頭打ちでも、今も現役で活躍し続けるハカセと浦さん

こんなハカセのサクセスストーリー追いかけ、写真と文章で読みやすく紹介したのが本書の著者の西松宏さん(児童書作家・写真家・ライター)。数多く収録された元気なビジュアルから、西松さんから見たハカセと浦さんへの思い、そして寄りすぎず離れすぎない、細やかな配慮がなされた上で撮影されたことが伝わってきます。また、随所にある優しく温かい筆致から「児童書」というカテゴリーでありながらも、老若男女誰でも引き込まれる内容だとも思いました。

最後に、本書の発行元・ハート出版の担当者にも話を聞きました。

「現在のハカセは、推定14歳と比較的高齢ということもあり、成績自体は頭打ちですが、まだまだ現役でがんばっています。

本書では犬と人の絆、命の尊さ、努力することの大切さを『ハカセ』が教えてくれます。

また、保護施設で働く人たちの活躍、保護犬がどういう存在かということもよくわかります。躍動感あふれるハカセの写真をオールカラーでたくさん掲載しているのも見どころです。ぜひお手に取って、何度も読み返してください」(ハート出版・担当者)

 

本書に数多く収録されている元気なハカセの表情から、「今」を楽しみ、そして浦さんという信頼できるパートナーとの絆を深めていることが伝わってきます。ハカセと浦さんの活躍を通し、動物の命の重み、特に保護犬のことをより深く知ることができる一冊。そして何よりハカセの真っ直ぐな表情に心を打たれる本でもありました。是非ご一読ください!

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