多頭飼育崩壊の現場からレスキューされた犬 譲渡から2年でようやく自ら歩いて玄関の外へ

岡部 充代 岡部 充代

 竹田ベルちゃんは4歳になったばかりの元保護犬。里親さん宅での生活に馴れるまでかなりの時間を要したと言います。

 関東の多頭飼育崩壊現場からレスキューされた犬でした。多頭飼育の始まりは捨て犬5匹にエサをあげたこと。きっとやさしい気持ちからだったのでしょう。でも不妊手術をしなかったためにどんどん頭数が増えて……子犬を里親会へ連れて行くなど飼い主さんなりに努力したようですが、それも追いつかなくなり、一時は80頭ほどに膨れ上がりました。管理し切れるはずもなく、飼育環境は劣悪。見かねた保護団体が現場に入り、行政機関や獣医師などと連携してレスキューしたそうです。

 

 ベルちゃんは三重県で活動する動物保護団体『わんらぶ』に引き取られ、里親を募集。フルールちゃんとオランジュちゃんというボストンテリアが2頭いる竹田家に迎えられました。

「わんらぶさんのブログで多頭飼育崩壊現場から迎えた子がいると知りました。人馴れしていなくて、すごく怖がりだと。ケージから出てこないし、隅っこにいて目も合わせようとしないと書いてありました。そこに引かれたんです」(竹田さん)

 竹田家にはかつてハムスターがいました。ペットショップで他のハムスターとうまくいかないからと、1匹だけ隔離されていた子。とても怖がりで、家に来てからも誰かがケージの前を通るたびに怒っていたそうです。でも次第に怒らなくなり、やがて手に乗るように。「ハムスターと犬では違うかもしれませんが、ベルちゃんも何とかしてあげられたらと思ったんですよね」(竹田さん)。こうしてベルちゃんは竹田家の“三女”になりました。

 

 竹田家でもしばらくはケージから出てきませんでした。「ずっと横を向いたまま。ケージから出られるようになっても、部屋の隅っこにばかりいましたね」(竹田さん)。それでもだんだんと行動範囲が広くなり、やさしく声を掛けながら近づくと触れるようになりました。

「フルールとオランジュが当たり前にできることも、ベルにとっては当たり前じゃない。だから、焦らずゆっくり。散歩も苦手で、自分から玄関の外には出られませんでした。抱っこしたまま近くの公園に行って、少し降ろして帰って来る。キョロキョロしながら挙動不審な歩き方でしたね(苦笑)。自分の足で玄関から出られるようになったのは2年たってからです。その先へは進めないからまた抱っこですけど、歩いて玄関から出たときはうれしかったですね」(竹田さん)

 今も怖がりなことに変わりはなく、急に立ち上がったりするとビクッとするそうですが、家族の前でお腹を見せるまでになりました。ハムスターとか犬とか、心を開くのに種は関係ないようです。

 

 ベルちゃんにはその後、“弟”もできました。同じわんらぶ出身のジェリーくん。赤ちゃんのとき3きょうだいで山で保護され、他の2頭はすぐに家族が決まりましたが、一番怖がりだったジェリーくんは1年以上、わんらぶや預かりスタッフ宅で過ごしたと言います。

 そんなジェリーくんに竹田さんが目を留めたのは、「なんとなく私と目元が似ていたから(笑)」。ブログで見てずっと気になっていたのですが、ベルちゃんの遊び相手をと考えたとき、わんらぶからジェリーくんを勧められ、「この子はうちに来る運命!」と確信したそうです。それにしても、また怖がりとは……。

「たしかにうちに来たときは固まっていましたし、すぐにはケージから出てきませんでしたが、ベルを知っているので全然、大したことありませんでした(笑)。ジェリーは赤ちゃんのときからヒトの手で育てられたからでしょう、割とすぐ馴染んでくれました。ベルもジェリーのことをすごく気に入ってくれて、ずっと遊びに誘っていましたね。フレンチブルドッグは小さすぎて遊び相手にならなかったので、ベルより大きなジェリーが来てくれてよかったです」(竹田さん)

 

 4頭もいるとお世話が大変そうですが、「それぞれ性格が違って面白いですよ」と竹田さん。1頭ずつ日記のようなノートを付けていて、特にベルちゃんは「読み返すと変化が面白い」と懐かしそうに話します。“子育て”で心掛けているのは「叱るときは下の子を」。年齢と体の大きさが反比例しているため、「上の子を叱って、下の大きい子が調子に乗ると嫌だから」だそうです。多頭飼いで心得ておきたいことの一つかもしれません。

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