繁殖場で8年暮らした柴犬が喫茶店の癒し犬に ケンカでもげた鼻の手術を受け、多くの人に愛され幸せに

岡部 充代 岡部 充代

「ぐっふぃを引き取るとき、私でいいのかとすごく悩みました。いろいろな方の想いがあるのを知っていたので…」

 そう話すのは今年の夏、1頭の保護犬を家族に迎えた上芝宏美さんです。ぐっふぃくんは約8年間、繁殖場にいました。保護活動をしている人たちがレスキューに入ったとき、160頭を超える犬が過酷な環境で暮らしていたそうです。1年半ほど掛けて犬を順番に引き出し、その繁殖業者は完全廃業。最後に引き出されたうちの1頭がぐっふぃくんでした。鼻、唇、歯、舌の一部が欠損していたのは、ケンカでやられたのでしょう。

寄付募集に多くの善意 

 そんなぐっふぃくんを引き取り幸せ探しのお手伝いをしたのは、大阪を拠点に柴犬の保護・譲渡活動を行っている『Dog Shelter Osaka』。代表の奥谷友紀さんは獣医師と相談し、去勢手術と一緒に口周りの形成手術をしてもらうことにしました。

「食べることなどに支障はなさそうでしたが、口を閉じられないから常にノドが乾燥するし、将来のことを考えて、くっきぃ(当時の名前)が少しでも快適に、ご機嫌な犬生を送れるようにと手術を決めました」(奥谷さん)

 手術費用の寄付を募ったところ多くの善意が寄せられました。おこづかいから寄付してくれた子供もいたそうです。みんなの願いが通じて手術は無事に成功。その後、Dog Shelter Osakaの預かりボランティアである小菅家でしばらく暮らしたのですが、様子を伝えるインスタのフォロワー数が大幅に増えるほど、くっきぃくんはたくさんの人たちに愛され、見守られていました。

 

条件にピッタリだけど…

 だから、なのです。「10歳くらいまでのおとなしい柴犬の男の子」を探していた上芝さんが、条件にピッタリのくっきぃくんを見つけても“里親”に手を挙げるのをためらったのは。

「喫茶店をしているので、長時間のお留守番を避けるにはお店に一緒に連れて行けるおとなしい子じゃないとダメでした。インスタにアップされていた動画を見て『この子しかいない!』と思ったのですが、保護してくださった方、寄付してくださった方、手術してくださった病院の先生…たくさんの方が想いを寄せている子でしたから、なかなか連絡する勇気が出ませんでした」(上芝さん)

 上芝さんが目を留めたのは小菅夫妻が投稿したシャンプー動画。くっきぃくんが6頭目の預かりだったという小菅夫妻が、「最初からあんな風におとなしくシャンプーさせてくれるのは珍しい」と撮影したもので、上芝さんは「頭から水を掛けられても身をゆだねてキョトンとしている姿に、この子しかいないと思った」と振り返ります。

お見合い成功

 悩む上芝さんに代わって友人の一人がDog Shelter Osakaにメールを送ってくれました。するとそこからはトントン拍子。小菅家での“お見合い”がセッティングされ、10日後にはトライアルが始まりました。

「お見合いのときから全く吠えなかったし、触らせてくれて、オヤツも手から食べてくれました。これならお客さまにも大丈夫だろうと、そこがクリアできたのが一番大きかったですね。でも実際にうちに来るまでものすごいプレッシャーでした。とにかく注目度の高い子なので、本当に私でいいのかと毎日、葛藤がありました」(上芝さん)

 奥谷さんと小菅夫妻に連れられてお店にやって来たくっきぃくんは、初日から落ち着いた様子で店内を“探検”し、ケージでくつろいでいたそうです。トライアル期間中にお客さまとのトラブルや粗相も一切なく、正式譲渡が決定。ぐっふぃくんと名前を変え、今では多くのお客さまにかわいがられています。

片手で食べて片手でなでなで

「ケージのすぐ横が指定席のお客さまが3人いて、『毛まみれになりますよ』と言ってもあえてそこに座られます。片手で食べて片手でなでなで(笑)。ぐっふぃもよく分かっているから『なでて』って寄って行きますよ。他のお客さまも食べ終わると遊んでくれますし、ぐっふぃに会うために週3日くらいモーニングを食べに来てくださる方もいます。週末には必ず会いに来てくれる小学生の女の子もいますしね。ドッグカフェではないので犬連れで来ていただくことはできませんが、ぐっふぃの固定ファンは多いです」(上芝さん)

 上芝さんの話を聞いていた小菅さんが言いました。「癒されるんでしょうね、ぐっふぃくんの存在に。そういう子です。手が挙がらなければあのままウチでと思っていました」。

 

幸せにしてね!

 ぐっふぃくんはお散歩が大好き。上芝さんはお店を切り盛りしながら朝夕2回ずつ、合計10キロ近く歩くと言います。

「おかげで痩せました(笑)。ぐっふぃが来てくれて本当に良かったです。ケガをしていてかわいそうとか、そういうのは初めから一切なかったんですよね。保護犬というだけで『大変だったね』とか『つらかったね』と言われがちですが、犬はそんなこと思ってない。過去は関係なく未来しかないので、ぐっふぃには逆に『幸せにしてね』とお願いしました。今?もちろん幸せです」(上芝さん)

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