ロシアによるウクライナ侵攻から2カ月が経過する中、ウクライナでの戦況が日々メディアで報じられ、ロシア軍の民間人を無差別に殺害するという戦争犯罪が明るみになっている。米国を中心に欧米諸国はロシアへの経済制裁を強化しているが、中国が依然として沈黙的な態度を貫き、プーチン大統領自身も欧米はロシアを孤立させられないと自信たっぷりな態度を示している。
一方、岸田政権は思った以上にロシアへ厳しい態度を貫き、同国へ経済制裁を強化するだけでなく、防衛や諜報などを担当する在日本ロシア大使館の外交官8人を国外追放するなど、米国と足並みを揃えている。それによって、ロシアも日本に対して対抗措置を強化する方針を示しており、今日の日露関係は冷戦終結から30年の中で最も悪化している状況と言えよう。それも影響して、ロシア海軍の潜水艦が4月14日にロシア極東沖の日本海で巡航ミサイルの発射実験を行った。発射された巡航ミサイルはウクライナ侵攻の際にも使用されたカリブル(Kalibr)だという、また、北方領土の国後島では3月30日、ロシアによる軍事訓練が実施され、根室からは照明弾らしき光が相次いで確認された。近年、日本の安全保障上の脅威は第一に中国(海洋覇権など)、第二に北朝鮮(核ミサイル開発・実験)だったが、今後はロシアを加えた3正面脅威に対応していく必要がありそうだ。日本を取り巻く安全保障環境はいっそう厳しくなっている。
そのような中、1つ朗報がある。3月9日に実施された韓国大統領選挙の結果、保守野党「国民の力」のユン・ソンニョル氏候補が与党「共に民主党」のイ・ジェミョン候補との大接戦を制して当選した。ユン氏は当選直後にバイデン大統領と会談し、北朝鮮政策で日米韓の協力の重要性を強調するなど冷え込んだ日韓関係の改善に努めるとみられる。ユン新政権で外相候補に指名されたパク・チン氏も、慰安婦問題をめぐる7年前の日韓合意について公式な合意だとの見解を示しており、日韓には歴史や竹島など多くの課題があるものの、現実的利益を重視して日本に接近している見込みだ。
韓国が日米重視の政策に転換すれば、東アジアの国際政治環境が大きく変わることになり、北朝鮮による軍事活動がさらにエスカレートするだけでなく、中国の韓国への警戒心も強まることになろう。たとえば、ユン氏の当選が明らかになって以降、韓国軍によると、中国の軍用機が3月23日に済州島付近の防空識別圏に、ロシアの軍用機が3月24日に韓国東海岸の日本海上空の防空識別圏にそれぞれ進入したとされるが、両国には韓国をけん制する政治的意図があったと考えられる。ムン・ジェイン政権の韓国と日米との関係は冷え込む、中国を重視する姿勢が見えたが、それが転換することで中国は安全保障上も韓国へ警戒感を強めている。
上述の通り、日韓関係は多くの課題があり、互いに互いを良く思わない人が多いことは周知の事実だ。これまで通り、日本は歴史問題や領土問題で自らの考えを貫くべきことは言うまでもない。しかし、その中でも経済や社会、文化で日韓の交流がこれまでに深まってきたことも事実であり、日本を取り巻く安全保障環境がいっそう厳しくなる中では、安全保障面での日韓の接近がさらに求められよう。日米だけでなく、日米韓、さらには台湾を加えた安全保障協力を促進し、中国やロシア、北朝鮮への抑止力を高める必要がある。安全保障面での日韓の接近は長年米国が求めていることでもあり、日韓の接近によってバイデン政権の日本への信頼感もさらに高まるはずだ。日本は安全保障的に現実外交を強化すべきだろう。