シュートを外した日 「お前、終わったな」監督の態度が豹変 サッカー少年を追い詰めた“地獄の日々” 

長岡 杏果 長岡 杏果

近年、スポーツ指導者の選手に対する暴言や暴力が問題になっています。学生やプロの世界問わず指導者の行き過ぎた言動によって、多くの選手たちが心や体に傷を負っている現状があります。これだけ多く報道されていても、それは氷山の一角にしか過ぎません。指導者の暴言や暴力を誰かに相談すると競技を続けられないとの不安から、誰にも言えずに我慢してしまう選手が多くいます。

強豪校でサッカーに励むAくんは高校2年生です。Aくんは4歳からサッカーをはじめ、高校は親元を離れ寮生活を送りながらサッカーに打ち込んでいます。将来を有望視されるAくんですが、ある日を境に監督から毎日のように暴言を吐かれるようになったのです。

一時のミスから…監督の態度が一変

Aくんは入学当初からトップチームに入り、1年生で3年生とともに試合に出ていました。Aくんは勝気な性格でありながらチームのムードメーカーでもあり、監督をはじめコーチ、選手にも頼りにされる存在でした。

しかし、ある大切な試合で、Aくんはシュートを外してしまいました。試合には勝ちましたが、Aくんはシュートを決めなければいけない場面だったとひどく落ち込んでいたそうです。そんなAくんに監督がかけた言葉は「あんな場面でシュートを外す奴いる?お前、終わったな。もう使いものにならないから、さっさとどっか行けよ。家に帰ったら?」

この日を境にAくんはトップチームから外され、毎日部室の掃除をさせられボールを蹴ることさえ許してもらえない状況になったのです。

皆と一緒に練習をすることさえ許されなかったAくんでしたが、朝早く起き仲間と一緒に朝練をしていました。毎日、監督には「使えない。掃除なら使えるか」と言われていたのですが、Aくんはそれでもいつか監督に認めてもらえると信じて頑張っていました。しかし、3カ月後、Aくんに耳を疑うような言葉を監督が言い放ったのです。

「お前、いつまでいるの?やばい奴だな。これから試合負けたら、全部お前のせい」

これまでサッカーが大好きで辞めたいと思ったこともなかったAくんでしたが、ここにいてもサッカーはできないと思い、ある覚悟を決めたのです。

   ◇   ◇

Aくんが試合に出ていないことを心配していた両親は、けがをしたのか、それとも技術的な課題があり試合に出れなくなったのかとAくんにLINEを送っていました。その返事はいつも「大丈夫」のみでしたが、多感な時期ということもあり、そっと見守っていました。

しかしある日、母親にAくんから珍しくLINEが届いたのです。その内容は「もう高校辞めたい。純粋にサッカーがしたい」というものでした。驚いた母親はすぐに電話をして事情を聞き、初めてAくんの状況を知ったのです。Aくんの仲のよいサッカー部員もAくんを励ましながらも、どうすることもできず悩んでいたそうです。

Aくんの両親は追い詰められたAくんを救おうと学校の校長先生に話をした結果、サッカー部の保護者が組織の改革を求め、監督はサッカー部を退きました。Aくんは高校を辞めず、サッカーを続けています。

こうした指導者の行き過ぎた言動は指導という範囲を超えて、人を傷つける行為の他なりません。言葉で選手を抑圧する指導者こそ、現場から離れるべきではないでしょうか。未来ある選手が、こうした犠牲を負うことがないよう、周りの目が大切だと強く感じました。

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