鉄道模型愛好家の間で、指先に乗るほどの小さな部品が人気となっている。模型車両をつなぐ伸縮性のある幌という部品で、実際の車両でいえば連結通路の蛇腹のようになっている部分だ。鉄道模型は精密な作りでファンを拡大してきたが、それまで伸縮性のある幌は再現されていなかった。タテ14.1ミリ×ヨコ6.3ミリ（Sサイズ）という小さな部品ながら、装着後は見た目のリアルさが格段にアップする。さらに走行性も両立しているというから驚きだ。兵庫県の但馬鉄道模型CLUB代表の瀬尾雅昭さん(60）に開発の経緯を聞いた。
――模型用幌の開発にこだわった理由は？
瀬尾さん 鉄道模型の車両には薄いプラスチック製の幌がついています。でもこれだと車両と車両の間に隙間ができ、カーブでは妻面から車内が見えたりするのが気になっていました。リアルさを求めても、そのせいでおもちゃ感が出てしまう。ここを何とかしたいと思っていました。鉄道模型メーカーも作っていなかった部品だったので「何とか幌を作ることができないだろか？」という気持ちからNゲージ用の「幌」製作を始めました。ただ、すんなり完成とはいきませんでした。Nゲージは実際の車両の150分の1で作られており、試作品を装着すると直線は走行できても、模型用線路のカーブやポイントの半径が小さいので脱線してしまいます。そこで「見た目」と「走行」の両立を目指して、キッチン用スポンジや化粧品のパフ、はたまた低反発のスクイーズなど目についた柔らかくて伸縮性のある素材を手あたり次第使って試作品を作り続けました。
◆Nゲージ 線路幅9ミリ、実物の1/150で日本では人気の定番サイズ。海外では線路幅16.5ミリ、1/87のスケールであるHOゲージが主流。それより大きな模型に、Oゲージ（線路幅32ミリ、縮尺1/43）、Gゲージ（線路幅45ミリ、縮尺1/22.5）がある。またNゲージより小さな模型にZゲージ（線路幅6.5ミリ、縮尺1/220）がある。
――試作品を作り続け、行きついた素材がばねだったのですね
瀬尾さん 偶然動画で見たおもちゃがヒントになりました。それまで車両が小径のカーブ線路を曲がるときやポイントを通過するとき脱線してしまうことが多く、自在に伸縮して脱線しないで走行させるためにはどうしたらいいんだろうとずっと考えていました。そのとき見た動画の内容は、1960年代にヒットした子どものおもちゃで、階段をばねの力でシャクトリムシのように降りてくるあの「スリンキー」だったのです。こんなばねで「幌」が作れないのか、と考えたのです。
わたしが代表を務める模型CLUBに精密ばねメーカーで働く岡本さん（兵庫県豊岡市、株式会社東豊精工・常務取締役）が会員でした。そこで岡本さんに「ばねは丸いものしか見たことないが四角いばねは作れるのか？」と聞きました。「作れるが何に使うのか？」と聞かれ、四角いばねで「幌」を作ると伝えました。
――それから4年の月日が経った
瀬尾さん 念願であった「幌」の完成に一歩近づいたと思ったのですが そのときはメーカー側が本業で忙しかったのです。後押しとなったのはコロナでした。受注が減ったおかげで、メーカー側も時間が取れることになり、そこから製作が始まりました。その後改良を繰り返し、模型メーカーや車種を問わず、取り付けが簡単にできるように幌の大きさを調整しながら、ついに完成にこぎつけました。 実際、わたしが所有する車両に取り付け、自宅レイアウトでも問題なく走行することを確認しました。
◆JR西日本381系 クリーム色にえんじのラインの“国鉄色”で知られ、「こうのとり」などの特急で活躍した。「こうのとり」（新大阪―城崎温泉）や「きのさき」（京都―城崎温泉）のほか、「はしだて」（京都―天橋立）と「くろしお」（京都―新宮）があった。「くろしお」を除く３種類が国鉄色。老朽化のため2015年10月に引退。289系に置き換えられた。
（「幌」は正式に発売された。鉄道模型雑誌にも紹介され、鉄道模型ファンに衝撃を与え。爆発的人気となった。かばんの街である豊岡市のふるさと納税の返礼品にも選ばれている。小さな部品の開発で、鉄道模型界に革命をもたらせた）
――地元・豊岡から、世界初の部品を送り出すことになった
瀬尾さん 大手の鉄道模型メーカー等に連絡して作っていただいてもよかったのですが、地元企業に世界初のものを作っていただくほうがうれしいと考え、岡本さんに連絡しました。発売の際には鉄道模型雑誌RM MODELSの特集記事でも紹介していただきました。これからも鉄道模型ファンに喜んでいただけるモノを発明、考案したいですね。
Nゲージ鉄道模型用貫通幌「SP幌」6ケ入 グレー、ブラック（1320円）、ブラウン1650円
Yahoo!ショップ https://store.shopping.yahoo.co.jp/tohoseiko/
