鉄道模型界に革命、ばね会社が作った小さな部品「幌」が人気 苦節4年、開発者に聞いた

佐藤 利幸 佐藤 利幸

鉄道模型愛好家の間で、指先に乗るほどの小さな部品が人気となっている。模型車両をつなぐ伸縮性のある幌で、実際の車両でいえば連結通路の蛇腹のようになっている部分だ。世界トップクラスの精密ばねの専門メーカーで株式会社東豊精工(本社工場・兵庫県豊岡市)から2020年10月に発売されている。鉄道模型は精密な作りでファンを拡大してきたが、それまで伸縮性のある幌は再現されていなかった。タテ14.1ミリ×ヨコ6.3ミリ(Sサイズ)という小さな部品ながら、装着後は見た目のリアルさが格段にアップする。さらに走行性も両立しているというから驚きだ。同社常務取締役の岡本雄太さん(34)に開発の経緯を聞いた。

「ばねで幌を作れないか」

突然のオファーだった。小さなころから鉄道好きだった岡本さんは、中学時代に鉄道模型と出会う。それ以来、趣味として楽しんできたが、幌作りのきっかけとなったのは自動車部品メーカーから現在の会社に転職後のことだった。2017年に地元の「但馬鉄道模型CLUB」の代表・瀬尾雅昭さんから、本職の精密ばねの技術を見込まれて依頼された。その日からNゲージ用の「幌」製作が始まった。

◆Nゲージ  線路幅9ミリ、実物の1/150で日本では人気の定番サイズ。海外では線路幅16.5ミリ、1/87のスケールであるHOゲージが主流。それより大きな模型に、Oゲージ(線路幅32ミリ、縮尺1/43)、Gゲージ(線路幅45ミリ、縮尺1/22.5)がある。またNゲージより小さな模型にZゲージ(線路幅6.5ミリ、縮尺1/220)がある。

すんなり完成とは行かなかった。「本業がありますので、仕事と仕事の間に時間を見つけて、試作品を作り続けました。試作品は20個は作ったと思います」。細いステンレス線を四角形に巻いたSP幌。カーブが多い模型の線路上を走らせるためには、自在な伸縮性が必要だった。岡本さんがイメージしたのは、1960年代にヒットした子どものおもちゃで、ばねの力でシャクトリムシのように動く「スリンキー」だった。

こうして、コツコツと改良を重ね、メーカーや車種を問わず、取り付けが簡単にできる幌を完成させた。かつて岡本さんの地元・豊岡で「こうのとり」として走っていた381系車両、手持ち車両のなかでも愛着のある381系模型車両に取り付け、問題なく走行することが確認できた。気が付けば4年の歳月が経っていた。

◆JR西日本381系  クリーム色にえんじのラインの“国鉄色”で知られ、「こうのとり」などの特急で活躍した。「こうのとり」(新大阪―城崎温泉)や「きのさき」(京都―城崎温泉)のほか、「はしだて」(京都―天橋立)と「くろしお」(京都―新宮)があった。「くろしお」を除く3種類が国鉄色。老朽化のため2015年10月に引退。289系に置き換えられた。

完成後、但馬鉄道模型CLUB代表の瀬尾さんに報告したところ「作れると思っていたよ」とねぎらいの言葉をもらった。そして、発売の際には鉄道模型雑誌に紹介され、すぐに人気に火がついた。「一時期は生産が追いつきませんでした。大量に作れるものではないので…」。現在は豊岡市のふるさと納税の返礼品にも選ばれている。小さな部品の開発で、鉄道模型界に革命をもたらせた岡本さんは「HOゲージ用の幌を作りたい」と次なる目標を設定していた。

Nゲージ鉄道模型用貫通幌「SP幌」6ケ入 グレー、ブラック(1320円)、ブラウン1650円
Yahoo!ショップ https://store.shopping.yahoo.co.jp/tohoseiko/

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