歯にまつわるエピソードなら何でもネタにする歯科医芸人の”パンヂー陳”こと陳明裕さんが、今回は生き物の歯に関する教養を披露してくれました。例によって話は脱線しますが、歯の再生のためにメダカの歯を研究していることなど、意外にマジメなネタも知っているようで。(聞き手・山本智行)
--今日こそはちゃんと歯の話をしてくださいよ。
パンヂー陳(以下、陳):じゃ、今流行りの“カムカムエブリバディ”にちなんで、みんなが良く“噛む噛む”できるために大切な歯の本数についてのお話をしましょう。
--いいですね。
陳:山本さんは何かペット飼うてはりますか?
--今は何も。以前はスコティッシュテリアを飼ってました。
陳:なんか鼻をかみたくなる様な犬種ですね。
--それはスコッティティッシュ!
陳:知ってます。お約束でボケただけで「リサとガスパール」の絵本の黒い方、ガスパールみたいな犬でしょ!じゃ、犬って、歯が何本あるかご存知ですか?
--はー?失礼な!自慢じゃないですけど私、自分の歯が何本あるかも覚えてないんですから、そんな事聞かんといて下さい。
陳:人間は親知らずを入れなければ28本。犬も子犬の時は同じく28本なんですが、永久歯に生え変わると、上顎は切歯6本、犬歯2本、前臼歯8本、後臼歯4本、下顎は切歯6本、犬歯2本、前臼歯8本、後臼歯6本で合計42本もあります。
--へー、それって、大きなセントバーナードも小さなチワワも同じ本数なんでしょうね?
陳:そりゃそうです。和田アキ子さんも、池乃めだかさんも、歯の本数が同じなのと一緒です。
--池乃めだかさんといえば、猫の歯は何本ですか?
陳:確かに、めだかさんは、吉本新喜劇で猫の形態模写をされてますけどね。本物の猫は上顎が切歯6本犬歯2本、前臼歯6本後臼歯2本、下顎が切歯6本犬歯2本、前臼歯4本後臼歯2本、全部で30本です。ついでにメダカの歯は何本かわかりますか?
--その手には引っかかりませんよ、メダカに歯なんかないでしょ!
陳:確かにメダカの顎にはサメの様な立派な歯はありませんので、一見、歯がないように見えますが、代わりに咽頭歯と呼ばれる歯が喉に上下併せて1000本ほどあります。
--喉に歯ですか?しかも1000本も!歯が生え変わる時、気管に入ってむせたりしないんですか?
陳:エラ呼吸ですから。それに、そもそも気管はないですし、むせたりしません。それに歯って言ってもメダカの歯は“大根おろしのおろし金”みたいな形状です。しかも人間は人生で1回しか歯が生え変わりませんが、メダカなどの有歯脊椎動物は多生歯ですので一生のうちに何回も生え変わります。そのため、歯の再生の研究のためにメダカの歯を研究している歯科医学者もいらっしゃるくらいです。
虎は大きくてもネコ科、猫と同じ歯は30本
--なかなか興味深いですね。ところで今年は寅年。虎の歯は何本でしょう?
陳:虎は大きくてもネコ科の動物ですので、さっきお話しした猫と同じ30本です。ライオンもヒョウもチーターも同じ。たてがみがあっても、足が速くても、たとえ歌が上手くても同じネコ科ですから。
--そのチーター。水前寺清子やないので、歌は歌いませんけどね。じゃ、今話題の新庄ビッグボスにちなんで日本ハムのハムと言えば、豚の歯は何本ですか?
陳:豚は44本です。ちなみに哺乳類の歯の本数は切歯12本、犬歯4本、前臼歯16本、後臼歯12本の合計44本が基本なんです。ほとんどの動物の歯は退化して本数が少なくなっていますが、豚は基本のままなんです。
--言われてみれば新庄ビッグボスもああ見えて、基本を大切にしているようですからピッタリですね。
陳:何の話してはるんですか!じゃ、歯が一番沢山ある生き物は何だかわかりますか?
--はーっ?動物の歯の話、えらい引っ張りますね。ワニとかサメとかですか?
陳:いいとこ突いてますが、ワニは約80本しか生えてません。でも、一生のうちに20回以上も生え変わるそうですから全部合わせると1600本以上にはなります。サメは種類によってかなり違うようですが多いものだと3000本近くあるそうです。でも、1番といえばやっぱりデンデンムシでしょう。
--え!虫はあかんでしょ。虫に歯とかないでしょ!せめて魚類までにして下さいよ。
陳:デンデンムシと呼ぶと虫の仲間っぽいですが、カタツムリは陸に生息する貝類の総称なので、貝のお仲間です。かれらは約80本の歯が数百列もありますので1万から2万本もの歯があるそうです。ちなみに殻がないのがナメクジ。
--♫でんでんむしむし、かたつむり、おまえのあたまはどこにある♪やのうて、お前の歯はどこにそんなにあんねん、ですね。
陳:舌のような器官に歯が連なっていて歯舌と呼ばれてます。しかも、ああ見えてカタツムリってコンクリートでも削り喰っちゃったりするとも言われてますから。
一番大きな歯の持ち主は?
--話が横道にそれている気がしないでもありませんが、一番大きな歯の持ち主はなに?やっぱりカラダの大きいクジラですか?
陳:シロナガスクジラは確かに体は大きいですが、主食はプランクトンなので所謂、歯はないです。でも、同じクジラの仲間のイッカクのにオスは、1本だけ歯が上アゴから突き出ていて、最大で3メートル近くになるそうですからもしかしたら1番かも知れないですね。ただし、一般には象牙でお馴染みのアフリカゾウのオスという見方が多いです。象牙は大きいものだと3メートル以上で、重さも1本百キロを超えるものもありますからね。
--そんな大きな歯を治療するのは、歯医者さんも大変ですね。
陳:例え、ジャングルで開業してたとしても象の患者さんは来ないので大丈夫やと思います。
--歯の本数、大きさは分かりましたが、以前犬を飼ってた時、歯周病にかかってたのか物凄く口が臭かったのを覚えてます。
陳:やっぱり犬は飼い主に似るんですね。山本さん、ちゃんと歯磨きしてあげてましたか?
--えっ?犬も歯を磨かなあかんのですか?
陳:僕は人間の歯科医なので専門外ですが、飼い犬は人と暮らしているので食生活が野生環境とは異なります。よって歯磨きは必要だし、歯石が溜まったら獣医さんで歯石除去も必要です。
--歯石なんか、獣医さんで取ってもらえるんですか?
陳:義妹が獣医をしていますが、以前うちでいらなくなった歯石を取る機械をあげた事がありますし、お口の健康に力を入れてる獣医さんは多いと思います。一般歯科だけでなく、アメリカの矯正歯科医の友人はドッグショーに出る犬の矯正治療を頼まれてやったら何と、その犬が優勝してしまって、以来、犬の患者さんが増えて困ったと、うれしい悲鳴を上げていました。
--歯磨きって、いつから初めて1日何回磨いてあげたらいいんですか?
陳:獣医じゃないので参考程度に聞いていただくなら人間同様、歯磨きの習慣は早く始めた方が受け入れてもらいやすいと思いますし、理想を言えば食事の度に磨いてあげた方が良いでしょう。でも、山本さんみたいに飼い主さんご自身が、そんなに歯を磨く習慣がなかったら無理かも知れませんね。
--失礼な。歯を磨く習慣はあります!毎食後じゃないだけです。