推定8歳になる、まるさんは名前の通り、まるっとしたシルエットが愛くるしい女の子。しかし、そのニャン生は見た目からは想像できないほど、波乱万丈。まるさんはネグレクトから救出された後、2年という歳月を経て、ようやく「ずっとのおうち」と心許せる相手に巡り合うことができました。
2年間里親が見つからなかったサビ猫に一目惚れ
猫と暮らしたいと思っていたラクシュミー(@Laxmi1920)さんは、2年前にペット可の賃貸に引越し。里親募集サイトにて、単身者でも成猫を譲渡してくれる人を探していたところ、まるさんに出会いました。
実はまるさん、元の飼い主さんによってネグレクトされていた子。
元の飼い主さんは心の病にかかってしまい、飼っていた十数匹の猫たちをお世話できなくなり、2~3頭ずつを、ひとつのケージに閉じ込めて管理しようとしたのだそう。まるさんは食事や清潔な水を満足に得られず、トイレ掃除もきちんとしてもらえていませんでした。
飼育崩壊が発覚したのは、行政が別件で元飼い主さん宅に介入したため。その後、依頼を受けた保護団体の根気強い説得もあり、猫たちはレスキューされました。
保護当時、まるさんは5歳。
サビ猫はアーティスティックな柄であるからか、里親が決まりにくいことも少なくありません。まるさんの場合も2年近く里親募集をしていたものの、誰からも声がかからず…。預かっていた方も、里子に出すことを諦めかけていました。
そんなまるさんに、ラクシュミーさんは一目惚れ。すぐに問い合わせ、対面やトライアルがとんとん拍子で進み、正式に家族として迎え入れることとなりました。
お迎え当日、まるさんはまったく鳴かず、フリーズ。2日目の朝にはケージから出たいと主張し、部屋の中を少し探検するも警戒心がうかがえました。
そんな様子を見たラクシュミーさんは時間をかけて慣れてくれればいいと思っていましたが、なんと3日目には予想に反して撫でられるように…!
しかし、まるさんが見せるひとつひとつの行動からは過酷な環境を生き抜いてきたことが伝わってきました。
「1日の大半、ケージで大人しく寝ていました。ケージから出ても、鳴いて自己主張することはあまりなくて。子猫から若猫の頃、ケージに閉じ込められていたからか、猫なのに高いところに登りませんでした」
そんなまるさんの心に変化が起きたのは、おうちに来てから1カ月が経った頃。心を許せる相手だと認識してくれたのか、まるさんは日中、常にラクシュミーさんのそばに寄り添い、夜は必ず一緒に眠るように。鳴いて、コミュニケーションを取ろうとしてくれるようにもなりました。
「遊び方がアクティブになり、おもちゃに興奮して走り回ることが増えました。爪切りも受け入れてくれ、ブラッシングが大好きになったので、ゴワゴワでベタベタだった被毛は、ふわふわサラサラになりました」
過酷な環境で生きてきたからか、いまだにおしっこは1日にまとめて2回し、うんちは2日に1回。トイレを増設するなどの工夫を凝らしても、いまだに溶けない心の氷はありますが、最近ではラクシュミーさんに対して、「撫でて」「構って」と自己主張することが増えてきました。
「私がベッドや床にいると必ずやってきて、顔のそばで転がり、盛大にゴロゴロ。これが、本当にかわいいんです」
まるさんにとって、ラクシュミーさんは同情ではなく、濁りのない愛情を向けてくれた相手。だからこそ、ふたりの間には強い絆が芽生えたのかもしれません。
動物のネグレクト問題は他人事ではない
実はラクシュミーさん、まるさんを含め、これまでに全3頭のサビ猫と暮らしてきたサビ猫マニア。
「サビは賢くて、愛情深い猫が多いように感じます。お笑い系かツンデレな賢い系に分かれるかも…とも思っています」
共に暮らす、まるさんはお笑い系のよう。共に過ごすようになってから、ラクシュミーさんの日常には笑顔が増えました。
「まるさんは遊んでいて興奮すると、走り回ってドリフトし、マットで滑って転んでしまうこともあります。尻尾が短く、ずんぐりむっくりしているので、まるでウォンバットみたいです」
一緒に過ごしてきた中で、ラクシュミーさんの心に強く残っているのは、まるさんが鶏むね肉のおいしさを知った時のこと。ある日、鶏むね肉のゆで汁をもらったまるさんは、よほどおいしかったのか、半分ほど飲んだ後に器を覗き込んだり手を突っ込んだりと大興奮。挙げ句の果てには器の下から顔を突っ込み、食器をひっくり返したのだとか。
「お肉が入っているはずなのに見当たらないから、探していたんでしょうね。思い返しても、気の毒やらおかしいやらで、笑ってしまいます」
そう語るラクシュミーさんは過酷な状況を生き延びてきた愛猫が二度と悲しい思いをしないよう、共に暮らす中で、まるさんが怖がったり嫌がったりすることはせず、自分のペースで好きなように過ごしてもらえるように住環境を整備しています。
「ケージを含め、トイレ、食器、ベッド、ブランケットなどは常に清潔にしています。汚しても、すぐに綺麗にしてもらえると分かってもらえたら嬉しい」
また、まるさんを「なんてかわいいんでしょう」「最高の猫ちゃんだね」「世界一かわいい猫ちゃん」など、言葉で褒めるように意識。「かわいい盛りに、かわいいねと褒め称えてくれる人がいなかったのは、本当に不憫ですから」
そう口にしつつも、ラクシュミーさんは元飼い主さんに起きたことは他人事ではないと考えてもいます。
「元の飼い主さんも、いじめようと思って飼い始めたわけではないはず。心の病で満足にお世話ができなくなり、誰にも相談できないまま病が進行して、どんどん状況が悪化していってしまったのではないかと。これは誰にでも起こり得ることだと思っています。なお、元の飼い主さんは適切な治療を受け、現在は回復されたそうです」
猫の幸せは、飼い主の手にかかっているからこそ、私たちは自分の心と体の状態にも気を配っていく必要がある――。そう痛感させられるラクシュミーさんの言葉を聞くと、「動物を飼う」ではなく、「動物と共に生きる」ができる飼い主になりたくなります。