現在の滞在時間は10分以上-。京都市下京区にある大丸京都店のトイレの個室に、用を足している時間を教えてくれるタブレットが設置されている。個室に入ると、タブレットに表示される数字が少しずつ進むのだが、隣には「体調が悪い場合はゆっくりご利用ください」との注意書きもある。無言の圧力でトイレを急かされているような、そうでないような…。一体何のため?
大丸京都店の広報担当者は「スマホでトイレの空き情報を調べられるサービスの一環です」と話す。店のホームページから専用サイトにアクセスすると、地下2階から8階まである洋室トイレの使用状況が男女別で表示されるという。大丸京都店は1928年(昭和3年)に建設され、改築や増築を重ねてきた。根本的な建物の構造は変わっておらず、トイレの個室は男性が1~2室、女性は最大6室とそれほど多くない。特に下層階では満室になることが多く、どこのトイレが空いているかお客さんが確認できるように昨年春、サービスを取り入れた。ただ滞在時間が表示される理由については「何でですかね…」と首をかしげた。
サービスを提供する株式会社VACAN(バカン)=東京都千代田区=に聞くと、トイレの混雑を抑制する仕掛けだとわかった。便座に腰かけてふと考え事をしたり、スマホを触ったり…。「トイレはホッと落ち着ける場所だからこそ、気づいたら長居してしまう人もいる。でも、意外と自分がトイレにいる時間ってどれほどか知らないですよね」と担当者。滞在時間を可視化することで「こんなに長い時間いたのか。困っている人がいるかもしれないから出ようかな」と譲る気持ちを促すのが目的という。
「空間の可視化」をコンセプトに2016年、トイレの混雑状況を調べられるサービスを開始した同社。20年に東京のオフィスで1カ月間の実証実験をしたところ、導入した前後で30分以上の滞在が64%減少。20分以上は43%減、15分以上は29%減というデータが得られた。現在は全国2500カ所の個室に設置されている。
ただ、決してトイレを急かしているわけではないという。「弊社にはお腹が弱い社員も多く、腹痛時のつらい気持ちや、体調不良で長時間利用せざるをえない状況もよく分かります。目指しているのは、必用な人が必要な時、すぐに駆け込めるトイレ環境です」