関西の私鉄、阪急電鉄を利用するたびになんとなく気になっていることがある。多くの駅のトイレ出入り口に、現在もティッシュペーパーのレトロな自動販売機が置いてあるのだ。昔と違い、今やどの個室にもトイレットペーパーが備え付けられているのにもかかわらず、である。一体どんなニーズが? 私が知らないだけで、実は結構売れているのだろうか? 阪急電鉄と発売元を取材した。
ちょっと大きく、ちょっと分厚い
まずは実際に買ってみよう。自販機の存在は認識していたが、恥ずかしながら、買うのは初めてである。あらためて自販機をよく見ると、「このトイレにはトイレットペーパーを設置しています」という注意書きが。トイレットペーパーがない、と早合点して購入する人がいるのだと思われる。
機械に100円玉を入れ、小さなレバーを下ろすと、ティッシュが1個静かに落ちてくる。形は一般的なポケットティッシュと同じだが、サイズはやや大きく、紙質がしっかりしているためか分厚い。台紙は白で、寸法(200mm×250mm)と枚数(17W34枚)、発売元など最低限の文字情報が印刷されているだけ。作りは極めてシンプルだ。少なくとも、わざわざ100円を出してまで買いたいものではなさそうだが…。
ティッシュの自販機は今も87駅中61駅で稼働中
阪急電鉄の担当者によると、2022年1月現在、ティッシュの自販機が置かれているのは全87駅中61駅、計94カ所。1台当たりの販売個数は月に数個から数十個と幅があり、当然ながら、大阪梅田駅など利用者が多い駅ほどよく売れるという。一部の駅では生理用品も一緒に扱っているそうだ(これは気づかなかった)。
阪急電鉄のプレスリリースを遡ると、同社は2010年、開業100周年記念事業の一環として全駅のトイレにトイレットペーパーを設置している。ただ、担当者の話では、当初はトイレットペーパーの補充が頻繁にできなかったため、“保険”として自販機を残すことに。今もあるのはその名残りらしい。近年はトイレを改修する際に撤去するケースもあるといい、「この先、減ることはあっても増えることはないでしょう」(担当者)。
実際、現在コンコースのトイレが改修中(2022年2月17日まで)の西宮北口駅では、宝塚方面のホームにあるトイレのティッシュ自販機まで「発売中止」に。改修工事完了後はどうなるのか、予断を許さない。
「トイレットペーパーを触りたくない」人がいる?
ティッシュの台紙に書かれていた発売元、株式会社ヤマダ(神戸市西区)にも話を聞いてみた。電話で応対してくれたのは、2代目社長という朗らかな女性だ。
「ウチは“なんでも屋”の卸売業。ティッシュの自販機はもともと別の会社がやっていたんですが、高齢化で続けるのがしんどくなり、先代である父のところに『引き継いでくれないか』と話が来たんです。10年以上前…いや、もう20年くらい前になるかな」
「当時はまだ山陽電車や阪神電車の駅にもティッシュの自販機が置かれていましたが、今はもうありません。阪急さんは、確か『備え付けのトイレットペーパーを触るのが嫌だという利用者がいるかもしれないので、ティッシュの自販機は残しておく』という方針だったと記憶しています。あとは神戸高速鉄道。新開地駅や高速長田駅などには直接補充しに行っていますが、ほとんど売れていない駅もありますよ」
ちなみにヤマダは製紙会社ではないため、自販機用のティッシュは特注品を仕入れている。パルプ100%の流せるティッシュで、しかも「このサイズじゃないと、機械からうまく出てこない」という仕様らしい。
「以前は各駅の売店にもティッシュを卸していましたが、今は全部コンビニになってしまい、自販機以外は卸し先がなくなりました」と女性。「自販機のメンテナンスのノウハウも、ちゃんと教わる前に父が亡くなったので、実はよくわからないんです」と明かす。ううむ…どうなるティッシュ自販機!?