ある着物店のツイートで、御年94歳のお客さんのアクティブな行動力と深い言葉が話題になっています。5万以上のいいねがついた投稿について、店主さんに話を聞きました。
その内容とは、着物姿で杖を持ち、3階のお店まで急な階段をフーフーと息が上がりながら「きもの屋 ゆめこもん」に来店した男性
↓
「ネットでデニム着物を見て興味が湧いたんじゃ」
↓
(店主さん)ネットを見るんかい!デニムが好きなんかい!こりゃ驚いた!
↓
「人生 先が無いから楽しまんとな」って、重い言葉だね~♪とつぶやいた店主さん。
これを受け「新たな挑戦を続ける限り ヒトはいつまでも若い」「重いというか説得力あるわ〜」「おじいちゃんカッケー。憧れるわ。いくつになっても若い感覚を取り入れられる素直な人間になりたいものです。また目標が増えてしまった」「金言」「粋過ぎる大センパイにパチパチ」と絶賛の声が続々。
「お店は3階ですが、敷居はおもいっきり低いきもの屋」を掲げる東京・西池袋の「きもの屋 ゆめこもん」店主の中村篤さんに話を聞きました。30年間テレビ番組の制作に携わり、50代で和装業界に入ったという中村さん。オヤジバンドでヴォーカルも担当し、着物スタイルで月に1回、銀座のミュージックバーで歌っているそうです。
「人生の良き師匠に出会った気がしています」
――このお客さまが来店されたのは初めてですか?
そうですね。ネットで当店のデニム着物をみつけ、ご自身でお店の場所を確認してから来店されたそうです。お店は分かりにくくて迷う方も多いのですが「よく見つけられたな」と感心しています。店内でお話している中で「私は94歳です」と言われビックリしました。
――商品選びの際にも、印象的なお話はありましたか?
年季の入った着物と羽織をお召しになっていたのですが、「暖かくなる5月頃に着る着物を持っていないので探している」とのことでした。それには「デニム着物が丁度いいだろう」と。
それから、途中で昔を振り返り「13歳の時に戦争が始まり、少年兵として戦地に行った同級生が亡くなった」という話もされ、「すごい時代を生きてこられたんだな。おじいちゃんの青春時代の思い出は辛いことばかりなのかな」としみじみ思いましたね。
――気に入られた着物はあったのでしょうか?
店内の色々なデニム着物をご覧になり、岡山デニムの着物を気に入られたようでした。「よし!これに決めた!春になったら買いに来る!」と言い残して帰られましたよ。
――またの来店が楽しみですね! 改めて、今回のご来店で感じたことは?
私は現在64歳ですが、おじいちゃんの行動を見て「あと30年は人生を楽しめるんだ」と勇気が湧いてきました。そして、長生きの秘訣は「何事にも熱い好奇心を持ち続けること」だと感じました。人生の良き師匠に出会った気がしています。
――今回のツイートへの反響はいかがですか?
大変驚いております。ツイッターの反響もおじいちゃんの行動力に刺激を受けた方が多いようですね。誰もが「そんな歳のとり方をしたい」と願っているのだと感じました。
カジュアル代表のデニム着物って?
――ちなみにおじいちゃんが気に入ったデニム着物とは?
いちばんの魅力は「とっつきやすい」ということです。一般の方が「着物」に抱くイメージは「高級で高価な素材」「メンテナンスが大変そう」というものでしょう。でも「デニム」は身近なもので、洗濯機でジャブジャブ洗えるので。着物未経験のお客様も「デニムだったら着てみようか」という方は多いですよ。
――初心者向きなんですね。
もうひとつの魅力は「自由なコーディネートを楽しめる」ことです。通常の着物は襦袢・足袋・草履などの装い方が決まっていますが、デニム着物はカジュアルの代表みたいなものですから、着こなしにルールはありません。インナーはTシャツでも、ハイネックセーターでも、パーカーでもOK!ブーツやスニーカー、帽子とも似合います。
――こちらのお店のオリジナルなのですか?
オリジナルのデニム着物については、国産の生地を使い、今年の春に販売を始める予定です。国産のデニム生地は柔らかくてしなやかな着心地。着れば着るほど味が出る…洗えば洗うほど風合いが良くなる…今の時代にあったサステナブルな素材だと思います!
生地の持ち込みOK、100人いれば100通りの楽しみ方を
――元テレビマンの店主さんがこの業界に入られたきっかけは?
前職のころから着物ファンのコミュニティを作り、着物で楽しむイベントなどを催していました。55歳の時に過労で倒れて業界を去る決心をし、本腰を入れて着物をビジネスにしてみようと思ったわけです。カジュアルで自由な着物ファッションを提案することで、敷居が高そうな着物のイメージを取り払おうと考えました。
――最近はどんな着物が人気ですか?
お客さまが好きな生地を持ち込んで仕立てるというサービスが人気ですよ。4年前に来店されたある男性の悩みを聞いてから始めたんです。
彼に「男性の着物は渋めの色が多く地味なものばかりです。でも、私は身長が高く腕も長いので、女性用の反物では生地が足りません」と相談され、生地屋さんで好きな布を買ってきてもらうよう提案しました。その結果、インパクトのある着物ができ、大喜びの彼は週末になるとその着物を着て街を歩いているそうです。
――それは個性的な着物ができあがりそうですね。
そのことが評判を呼び、色々な生地を持ち込まれます。美大生が授業で染めた生地、思い出の詰まった自宅のカーテン、暖簾として売られていたステンドグラスのような生地、大好きな歌手が歌う曲目がプリントされた生地など。
そして仕立て方にも「ポケットを付けて欲しい」「羽織にフードを付けて」「衿の形は洋服のジャケットのようにして欲しい」とリクエストが(笑)。100人いれば100通りの楽しみ方がある、みなさんが出来上がった着物や羽織に喜んでいる姿をみると、心からそう思うようになりました。
着物の魅力のひとつは、フォルムが日本人の体型を美しく見せているからと言われますが、私は「いつもと違うファッション」が与えてくれる刺激的な感情なのではないかと。新しい自分を発見させてくれるので、非日常を楽しむことで心をリフレッシュしてほしいと思います。
◇ ◇
同店のTwitterでは、店主の中村さんをはじめ、お客さんたちのさまざまな着物スタイルが紹介されています。今回のデニム着物などレディース・メンズどちらもそろい、男性のお客さんは約4割とのこと。男女問わず、着物をこれまで着たことないから…似合わないから…なんて考えずに楽しめそうですね。春になって、94歳の男性が来店してるのを想像するだけでもワクワクします!
【きもの屋 ゆめこもん 関連情報】
公式サイト https://yumecomon.shop-pro.jp/
公式Twitter https://twitter.com/yume_comon
公式YouTube https://www.youtube.com/channel/UCbWRZLA2AaoFjSfx8_n1KPg