亡き祖父のイタズラ?古いタンスから謎のハーモニカ音が聞こえる 調べたら由緒ある婚礼家具だった

桑田 萌 桑田 萌

一見、何の変哲もないタンス。ある抽斗(ひきだし)を引いて、元通り押し込んでてみると…「ジャーン♪」と懐かしさを覚える音色が。奥をのぞいてみると、小さなハーモニカが仕込まれている。

まるで珍品のような特殊なタンスの投稿が、SNS上で話題を呼んでいる。投稿者は、現代美術家の新宅睦仁さんだ。

タンスがあったのは、14年前に亡くなった祖父が使っていた部屋。死後はそのまま誰も使わず放置されていたが、最近になって新宅さんがアトリエにしようと整理していたところ、タンスからハーモニカのような音が鳴ることに気づいたそうだ。 

「祖父はエキセントリックな性格でした。庭でよく薪を割っていたり、戦争を経験したため手榴弾の投げ方を僕に教えてくれたり、成人向けカレンダーを居間に飾ろうとしたり(笑)。そんな祖父だったので、『そこらへんにハーモニカが落ちていたから、仕組んでみた』とか言いそうだなと思いました」 

しかし、今となってはその真相は誰にもわからない。何せこのタンスはしばらく放置されていたし、中には使う機会の少ない着物が収納されていたため、本当に「ただ置かれているだけ」の状態だったという。家族の誰もこのハーモニカの存在を知らず、「こんな音が鳴るなんて」と一様に驚いた。 

実はこのタンスには、歴とした名称があることがわかっている。ずばり「ハーモニカ箪笥」だ。博物館施設「和歌山県立紀伊風土記の丘」にも収められていて、紹介ページには以下のように説明がされている。

「ハーモニカ箪笥は、明治時代から昭和初期にかけて和歌山で製造された桐タンスの一種で、上段の抽斗(ひきだし)を開閉するとハーモニカのような音色がするのが特徴です」

「引手をはじめとした金具には鶴の装飾が施されるなど、婚礼家具に相応しい華やかで、非常に丁寧な作りとなっています」

(引用:紀伊風土記の丘所蔵の民俗資料 https://www.kiifudoki.wakayama-c.ed.jp/minnzoku/harmonica%20tansu/harmonica%20tansu.htm

また、泥棒が入ったときの防犯用に作られたという説もある。

新宅さんは「これが貴重な珍品なら置いておきたい」と思ったそうだが、実際にインターネットで調べたところ、「Yahoo!オークションなどでも売られていて、そこまで貴重なものでもないのかなと思いました(笑)」とのこと。「これが欲しい方に譲りたいと思い、SNSなどで募っています」と話す。

「このタンスを受け取った方は、実際にタンスとして使うなり、音のなるタンスとして楽しむなり、切り刻むなり、好きに使っていただければ」

「本当は美術作品でバズりたい…」現代美術家・新宅さんの本音

この投稿が話題を呼んだことに対し、新宅さんはこう本音を漏らす。

「僕は現代美術家です。自分の作品でバズってほしかった…(笑)」

では新宅さんはどのような作品を作っているのか。

「美術と料理を専門に学んできました。そのため、両方を掛け合わせ食べ物をモチーフにした作品を風刺的に描き、現代社会に問題提起をするような作品を描いています」 

一番ライトなものであれば、『BENTO(弁当) シリーズ』。バランスよく栄養を詰め込んだ無駄のない「弁当」に、流行のライフスタイルである「持たない暮らし(ミニマリズム)」を重ねて描いている。

また、ひとつのハンバーガーをホームレスと共有して一口ずつ食べたものを描いた『ONE BITE CHALLENGEシリーズ』も。作品を通して、アメリカにおけるホームレス問題を世に投げかけた。

独自の視点で鮮やかに描かれた食べ物に、思わず目が釘付けになる。

最後に新宅さんに「タンスを作品に扱うことはないのか」と聞いてみたが、「ないです」ときっぱり。素敵なハーモニーを奏でるタンス、次は誰の手に渡るのだろうか。

■現代美術家/新宅睦仁 https://tomonishintaku.com
■Twitter:https://twitter.com/tomonishintaku

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