「誰のお迎えですか?」とけげんな顔 認知症の夫を介護する妻も実は…認認介護のリアル

長岡 杏果 長岡 杏果

みなさんは「認認介護」という言葉をご存知でしょうか。認認介護とは認知症の高齢者が認知症の高齢者を介護している状態を指します。65歳以上の高齢者の介護を65歳以上の高齢者が担う「老老介護」が大きな社会問題となっていますが、認知症デイケアに勤務する医療ソーシャルワーカーのMさんは「今後はより深刻な認認介護が増加していく」と懸念しています。

Mさんが最近担当したケースで、勤務する施設の重度認知症デイケアをKさん(80代・男性)が利用することになりました。Kさんの妻であるYさん(80代・女性)に、利用契約の話をする必要があり、デイケアの施設に来所してもらう約束をしていましたが、日時になってもYさんは訪れませんでした。

うっかり忘れてしまったのかと思ったMさん。早速Yさんに電話すると「何の約束だったのでしょうか。今日でしたか?」と、来所の約束そのものを忘れているような返答でした。後日、Mさんは2人が住む家を訪問し、利用契約について話をしました。ただ、そのときのYさんの受け答えの様子に、Mさんは違和感を抱かなかったそうです。

Kさんを介護するYさんも認知症だった

しかし、Kさんが初めてデイケアに通所する日に、気になる状況が見られます。

送迎のため自宅に向かうと、KさんとYさんはテレビを見ていました。お迎えに来たことを伝えると、Kさんは「借金の取り立てか!」とやや興奮した様子でした。そして、妻のYさんは「誰のお迎えですか?」とデイケアにKさんが行くこと自体を忘れているようでした。

一見、日常的な会話は成立しているように感じるため、これまでYさんの物忘れの症状は年齢的なものと思われ、認知症の疑いを抱く人もいませんでした。

 しかし、Yさんの様子が気になったMさん。契約書に書かれたKさんの息子さんに状況を伝えました。息子さんも以前から物忘れが見られることは把握していたようですが、父親であるKさんだけが認知症であると思っていたとのこと。話し合った結果、MさんはKさんが住む自治体の地域包括支援センターへ連絡し、KさんとYさんの状況確認を依頼したそうです。

その後、息子さんに付き添われ病院を受診したYさんは認知症と診断されました。KさんだけではなくYさんにも介護認定がおり、2人一緒にこれまでと同じように住み慣れた自宅で生活を送るための支援体制を整えることができました。また、Kさんはデイケアへ通所するようになりました。

KさんとYさんのようなことは、もしかすると筆者やみなさんの住む地域でも起こっているのかもしれません。認認介護は大きな負担を伴います。その負担の大きさから虐待につながる可能性も否定できません。認知症の程度にもよりますが、高齢者・認知症の方が自分からSOSを発信することが難しい状況でもあることを、私たちは忘れてはいけないのではないでしょうか。

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