「今回の衆院選から、どういった民意を読み取ることができるか」「結果を受け、それぞれの政党が、今後考えていくべき課題は何か」等を、考察してみたいと思います。前回コラム「自民は本当に“勝利した“といえるか? 衆院選を考察<前編>」に続き、今回の後編は衆院選の結果から見えてくるものについて、考えてみたいと思います。
目次
#1 自民は本当に“勝利した“といえる?
#2 立憲の低調は、「野党共闘」のせい?
#3 維新“躍進”の理由と今後
#4 「大物議員落選」を考える
#5 国民が政治に求めるもの、政治がなすべきこと
維新“躍進”の理由と今後
今回維新は、「自公には入れたくない、だけど、立憲・共産もイヤ」という人や、前回2017年の総選挙で、希望の党に投票した人の受け皿になりました。理念や思想的にも、その辺りの「ぽっかり空いていた位置」を、うまく取っていたといえると思います。
大阪のテレビ局によくうかがいますが、吉村知事の人気は非常に高いと感じます。知事がメディアに積極的に出て、新型コロナ対応に懸命に取り組んだ印象が、大阪はもちろん、全国的にあるのではないでしょうか。理知的かつ相手に敬意を払いながら、いろんな方に切り込む橋下徹さんや、松井市長のイメージも寄与していると思います。
国政においては野党であるものの、地方政治・行政において、「きちんと実行し、責任を果たす姿」を実際に見せていることも、信頼の醸成や、他の野党との差別化につながっていると言えるでしょう。
選挙戦術という点で見ると、維新は「(比較的)政党として新しい、幹部のカリスマ性が高い、経験の少ない地方議員が多い」ということが、プラスに作用していると思います。どういうことかというと、国政選挙の地元での実働部隊の核は、やはり地方議員(と熱心に活動する党員や支持団体)です。
まず、数を見てみると、大阪府議は、維新51、自民16、公明15、共産2、大阪市議は、維新40、自民21、公明18、共産4です。(市議会は他にもたくさんあります。)まず、数が多いですから、活動量が違います。
加えて、読者の皆さん、政党というものは、「党本部から指示があったら、都道府県や市区町村の議員や党員は、忠実に従う」と思っていらっしゃるかもしれませんが、実際は(政党によっては)全くそんなことはありません。経験を踏まえて申し上げると、特に歴史の古い政党の首長や地方議員は、数十年に渡り地元で権勢を誇る方が多くいますので、「地元を仕切っているのは自分(たち)だ、地元のことは自分(たち)が決める、人の指図は受けない」というプライドがあり、党本部は地方議員の選挙に影響力を持たないということもあり、むしろ、「党本部が何を言おうが知ったことか」という方が多くおられます(もちろん、そうでない方も、ちゃんといます)。
一方、維新の大阪の地方議員は、党の指示に忠実に従い、党勢拡大を目指して一丸となり、輪番制で、企業・団体や有権者の元へ、候補者を連れてあいさつに回り、大量の名刺やチラシの配布、ポスター張りなどを、総出でやったと言われています。党への依存が高いほど、忠誠心も厚くなるわけです。
(※)結果として、維新支持層のうち、73・7%が維新候補に投票し、自民候補に投票したのは4・3%。一方、自民候補に投票した自民支持層は62%にとどまり、15・5%が維新候補に流れた。(共同通信出口調査)
ただし、維新も楽観できる状況とはいえないと思います。前回以前の選挙結果と比較してみると分かるのですが、維新は、今回“躍進”というよりも、前回2017年に大幅に減らした分を取り戻した、という方が事実に近いです。
2012年から今回までの衆院選での維新の獲得議席数を順に見てみると、総数(小選挙区・比例区)で、54(14・40)→41(11・30)→11(3・8)→41(16・25)となっています。すなわち維新は、前回の衆院選で、希望の党に候補者も票も流れ、大幅に議席を減らし、それが、今回復調したと見ることができます。
また、維新が小選挙区で勝ったのは、大阪のほかは、兵庫で1議席のみであり、全国的に強固な支持を得たとは言えません。そして、橋下氏の言うとおり、寄せ集めで、候補者の質に非常にバラつきがある、という問題も事実だと思います。「維新だから勝てた」ではなく、「〇〇候補だから勝てた」にならないと、この先それほど甘くないと思います。
維新と国民は、今後、国会対応や政策面での連携を強化していくということで、立憲、共産等による野党共闘と一線を画していくとのことです。維新と国民両党の衆院議員は52人ですので、第三極としての存在感が高まれば、与党が、両党の主張に配慮しながら国会運営に当たる局面も生まれると思います。与野党の在り方や、今後、国の在り方を決める重要な論点についても、様々に影響を与えることになるだろうと思います。