不妊は女性だけの問題ではありません 男性不妊を描いた鳥獣戯画で泌尿器科医が伝えたいこと

竹内 章 竹内 章

妊娠できないのは女性のせいですか。認知されにくい男性不妊を描いた漫画「男性不妊戯画」がSNSで読まれています。子どもを待ち望む夫妻を演じるのは、鳥獣戯画のキャラクター(カエルとウサギ)。デリケートな問題を扱いながら、軽妙な会話とテンポのよい展開、散りばめられたくすっとさせる小ネタ。当事者の気持ちをしっかりフォローしつつ、それでいて押しつけがましくない。このドラマ、そして2人にどんな「未来」があるのでしょうか。とにかく皆さんご一読を。 

作者のサラリ医マン(@saraly_man)さんは、15年目の泌尿器科医。常勤先では、一般泌尿器科の診療に加え、男性不妊外来と男性不妊に関わる手術などを行っています。ダーヤマ TOPECONHEROES | ダ鳥獣戯画展開催中!(@TopeconHeroes)さんのサイトのイラストを使い、男性不妊をめぐる当事者の心の機微を表現しました。 

「日本中の病院に平積みしてほしい」

Twitterで公開後、「広く知られて欲しい...男性が普通に思ってる以上に悩んでる人多いので」「男性の不妊知識と当事者意識って本当に低いもんね。日本中の病院に平積みしてほしい」「不妊の原因が男性側だと判ったときの、「検査前の説明から検査結果を聞くまでの流れ、それで帰り道に奥さんにお土産を買っちゃうところとかなんでかわからないけど涙が出てしまう」「男性サイドの態度がすんげーリアル」などと心動かされる人が続出しています。

物語は2年前に結婚した2人(2匹?)の会話から。婦人科に通うウサギは、医師からパートナーの検査を勧められます。それが面白くないカエルは「俺が婦人科なんか行くの?嫌だよ」とへそを曲げますが、シバかれます。渋々行った泌尿器科では、知らされた精液検査の所見に動揺しますが、これまでの至らなさに気づいたのでしょうか、帰り道でウサギが好きなタルトをお土産に買い求めます。帰宅後、検査前よりも心の距離がちょっと近くなった2人の場面で、第1章はおしまい。SNSには「ふたりの今後が気になってしまう」と気をもむコメントも見られます。

不妊に悩むカップルは10組に1組とされ、50万近いカップルが何らかの不妊治療を受けていると推測されます。WHOの不妊症原因調査では、男性のみ(24%)女性のみ(41%)男女とも(24%)原因不明(11%)と報告されています。ですが、不妊治療はそのほとんどが婦人科で女性にのみ行われる事が多く、男性にはあまり行われていません。また、不妊を診察できる泌尿器科医師も限られています。

子どもを望むカップルの多くは仕事に忙しい世代で、男性の来院のハードルの高さは女性以上。また「お産は女性の仕事」という意識がいまだ根強く、「俺は大丈夫」という根拠のない自信から男性側からの協力が得られにくいのが現実といいます。このため、男性不妊への理解を深め、受診のハードルを下げるには、「正しい情報を男性に知ってもらい、男性側に寄り添った啓蒙活動を行うこと」(サラリ医マンさん)と、今回の漫画が生まれました。サラリ医マンさんに聞きました。

「私自身もそうでした」

―男性不妊について思うことを

「男性不妊外来を受診していただくことが精査・治療への第一歩と考えています。私自身もART(高度生殖補助技術)により子供を授かりました。ですが、女性が多く来院しているARTクリニックに男性が一人まぎれ込む居心地の悪さ、採精(マスターベーションによって精子を回収する検査)への心理的抵抗、所見が悪い際に自身が否定されるような感覚、など、妻のため・自分のためとは理解していても納得しきれない部分がありました」

―カエル君と重なります…

「病院に来るまでに様々な葛藤があったと思いますし、嫌々来る人も多いですから『来るだけで立派です!』と対応することを心がけています。パートナーに言いにくいこともあるので可能な限り1対1で話す時間は取りたいですし、辛い目に合っている人もいるので、同性として味方でありたい、と思っています」

―リプ欄には「パートナーの理解がない」といった女性と思われるユーザーの嘆きもあり、臨床以外の難しさを感じました

「結局のところはパートナー同士の問題です。子供を持つかどうかを含めて話し合っていただくことが必要だと考えています。子供を持つことが正しい夫婦の形、といった考えを押し付けるつもりもありません。ただ、収入に引かれて結婚するなどの思惑があるように、家族計画についてもお互いの思惑があることは否めないでしょう。そして、それが不和や離婚の原因となることは、やむを得ない部分があるのではないでしょうか。残念なことですが」

―タルトのお土産はカエル君の改心の現われですか

「世間にあふれる妊活情報の多くは女性側に立ったものです。一方で公的機関などが用意している情報は堅苦しく、興味のない男性の行動を変容させるのは容易ではありません。漫画にしても、女性が共感する内容は男性のそれと異なりますし、女性の留飲を下げるために男性が極悪人のように書かれ、最後は雷に打たれたように改心し、聖人のような夫になる…そんなことは現実にはあり得ないです。今回の男性不妊の漫画は『あなたのプライドや、気持ちもわかる。でもまあちょっと協力しましょうよ』がスタンスです。ある程度ニヤリとする内容でないと、読み進めてもらえないので、パロディを含めて面白くしました。結構仕込んだので、見つけてみてください」

―カエルとウサギはどうなるのでしょうか

「正直私としては出し切った感があるのですが、続きの希望がそれなりにあって驚いています。このネタは意外と時間をかけて(1年ほど)練って、男女双方から意見を頂いて修正を繰り返しているので、すぐ次の作品を創るのは難しいでしょう。ただ、男性不妊の知識を深めて正しい医療情報を得ていただくといったことは必要ですので、医療情報を含めた資料の作成は水面下で行っています。本マンガの巻末に資料を追加するような形で提供(し、次の作品までの時間稼ぎをする)を考えていますので、ご期待ください。新規のネタを作るのであれば、各治療(タイミング療法、体外受精など)に紐づけてエピソードを作成することを検討しています。あとは費用面ですね。今回は助成金を利用できたのですが、次回以降は……何とかします(笑)」

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