米国のワシントンで4月16日、バイデン大統領と菅首相による日米首脳会談が実施された。菅首相はバイデン大統領が対面で会談する初めての首脳となったが、今回の会談では中国に対してこれまでになく強い懸念が示された。会談後の共同声明では52年ぶりに台湾問題が明記され、台湾を内政問題と位置づける中国は強く反発した。
中国共産党系メディアも、「日本は中国との関係を修復させてきたが急に米国路線に重点を移し、両国の関係改善の勢いは失われた。日本が関わる程度によってそれなりの対価を払うことになる。」と強く日本を非難している。米中対立の中でも、習政権は経済的に日本との安定した関係を望んではいるが、今回日本が改めて米国と協調する姿勢を強く示したことで、今後は日中関係に摩擦が生じてくる可能性を念頭に入れておく必要がある。これですぐに中国が揺さぶりを掛けてくるわけではないだろうが、中長期的にはボディーブローのような行動を断続的に取ってくる可能性が考えられる。
中国が日本向けに取ってくる措置が展開されるのは経済領域だ。具体的に挙げられるものとしては、突発的な輸出入制限、関税引き上げ、不買運動、さらに深刻化すれば反日デモや邦人の不当拘束などがある。尖閣諸島で2010年9月、中国漁船と海上保安庁の巡視船が衝突し、中国人船長が逮捕されたことをきっかけに、中国は対抗措置としてレアアースの日本への輸出制限に乗り出し、2012年9月には、当時の民主党政権が尖閣諸島の国有化を宣言したことがきっかけで、中国各都市では市民による大規模な反日デモが勃発し、パナソニックの工場やトヨタの販売店などが放火され、日系のデパートやスーパーなどが破壊、略奪の被害に遭った。さらには、北海道大学の教授やゼネコン大手フジタの社員など邦人が不当に拘束される事例も後を絶たない。
最近では、新疆ウイグル自治区の人権問題を巡り、米国や英国などは一斉に中国に対して制裁を発動し、エイチアンドエムやナイキなどの欧米企業は新疆ウイグル産の綿花を使用しないことが報道され、中国国内ではそれら企業の製品に対する不買運動を呼び掛ける声がネット上で拡散した。そして、この問題では日本のユニクロも大きく取り上げられたが、フランス国内の人権NGOなどは4月、中国新疆ウイグル自治区での人権侵害を巡り、ユニクロのフランス法人や米国、スペインなど衣料品大手4社を強制労働や人道に対する罪を隠匿している疑いで刑事告発したと明らかにした。現時点でそれが受理されるかは不明だが、ウイグル問題を介して日本と第3国との経済関係にも摩擦が生じる可能性が表面化している。
こういったリスクが想定されるなか、企業のカゴメは4月、ウイグル産のトマトの使用を停止することを発表した。カゴメは品質や安定性を総合的に勘案した結果としているが、ウイグル人権問題も判断材料になったと明らかにしている。もともとカゴメの総売り上げに占める中国シェアは高くなく、今回の決定による損害も小さいとみられるが、これは2月以降深刻化するミャンマークーデターにおいて、ビール大手のキリンが国軍系企業との取引を停止したことと良く似ている。
依然として日本企業の中国依存度は非常に高く、バイデン政権が進める半導体などのサプライチェーンの確立や中国とのデカップリングは日本にとって非常に難しいシナリオだ。だが、チャイナリスクがこれまでなく高まってきていることは事実であり、日本経済のアクターたちは想定される被害の最小化を目指すべく、他国で代替可能な部分においては中国とのデカップリングを進めていくべきだろう。